『謝謝、北京!ー北京研修日誌(7)』婦人科へ
婦人科外来へ
婦人科・楊巧慧先生
北京での研修最終日は、婦人科外来です。
婦人科外来の担当は、楊巧慧先生。
とにかく外来は患者数が多いです。
患者さんが途切れることなくやってきます。
そのため、私たちが研修のために診察室に入っても、先生と顔を合せて正式に挨拶するという余裕はありませんでした。
ただひたすら先生が診察しているのを後ろから見学させていただくような感じです。
婦人科外来の流れ
流れとしましては、先ずはじめに、患者さんは楊先生の前に座っている新米の中医師のところでヒアリングをしてもらいます。
どんな症状なのか、どんな経過なのか、そういった基本的なことを問診していくようです。
そして20分後くらいでしょうか、ヒアリングを受けた後の患者さんが楊先生のところにやってきて、そこで実際の診察が始まる、というシステムです。
日本で言えば、お薬手帳みたいなものでしょうか?
いえ、お薬手帳よりももっと詳しく記載されておりまして、全ての病院の外来での受診が記録されます。
北京地区(北京市とその周辺)の住民に、この冊子が配布されます。
患者さんは診察の際にその冊子を先生に渡して、先生はその経過をつぶさに検討します。
そして問診をし、症状を聴いたり、漢方薬の効き具合を尋ねたり、処方に必要な情報を集めていきます。
ちなみに、キーボードの前に置いてあるスティックのりは、処方を記した用紙をこの冊子に貼るためのもの。
診療が終わると、先生は手慣れた手つきでピーッと余白を切り落として冊子に貼り付けます。
そしてもちろんここは中医学です。
とても混雑をしているといっても、基本的な脈診、舌診などは欠かさずやります。
(写真はプライバシー保護のため加工してあります)
例えばこんな症例
私たちが研修をさせていただいている間、いったいどれだけの患者さんがやってきたでしょうか。
楊先生はもちろん患者さんの方に集中しているわけですが、ときおり私たちの方にアドバイスをしてくれます。
また、通訳を努めてくださった日本人の中医大学医学生さんが、ときおり楊先生と患者さんの会話を聞き取って、そのお話を私たちに伝えてくれました。
余談ですが、この中医大学医学生さんは、「ふだん日本語を全然使っていないので、日本語が出なくなってしまって~すみません。」とお話ししてましたが、いやいやどうしてありがとうございますという感じでありますが、“日本語忘れる”くらい他の言語にひたひたになる、そういう経験をしてみたいものですね、ほんとに・・・。
という感じでありまして、中医大学医学生さんの通訳を聴きながら、最初のうちは患者さんの症例を書き留めていましたが、だんだん追いつかなくなりました。
そこで、ここはもうポイントだけ絞って吸収していこうとしました。
そんな中で印象的だった患者さんがおりました。
不妊症で悩んでいる方もおりまして、一人の方は夜勤明けです。
41歳、少しかすれ気味の声。やや痩せ型。
さばさばした明るい方でして、診察で、楊先生から「あなたは栄養失調よ、しっかりごはんを食べなさい」と言われると、
患者さんは、
「え~~~~~、ちょっとまってよ~~~、え、まじ?まじで言ってんの?あのさぁ、私は食事はしっかり食べてるわよ!なんでやねん!なに言ってるのさ~~!」
と頭を抱えて苦笑い。
そこで先生は、仕事のストレスなどがあるかどうかを聴きながら、イライラに対しては柴胡を出したり、逍遥散に補腎のものを加えたりするといいとお話ししてくれました。
また、「鬼箭羽(きせんう)」という生薬(私はこの生薬の名前は初耳でした)を使うこともあるそうですが、補薬を使うと子宮内膜が増殖することがあるので、それを緩和するために散結の生薬も少し入れると言いそうなのですが、それでこの「鬼箭羽」を入れたりするそうです。
いろいろと話をして患者さんは納得できたのか、多少イライラが収まった様子で処方の入った用紙を手にして診察室を後にしたのでした。
(下の写真は、この患者さんのものではありませんが、このようにしてパソコンで必要な生薬を入力していきます)
そしてもう一人、こんな患者さんもおりました。
30代前半で痩せ型の方。
色白の女性。
とても体調が悪いと、困った表情を浮かべておりました。
訴える症状は、異常な疲れやすさ、倦怠感、やる気のなさなど。
楊先生が手帳を見ていくと、漢方薬を服用しているにもかかわらず、どうやら体調が全然回復していない。
以前から骨盤内の炎症があったようで、その治療も含めて集中して治療をしたほうがいいと楊先生が進言しました。
これまでの処方で症状が一行に改善していないところを見ると、漢方薬が吸収されていない可能性もあると言うこと。
そこでこの患者さんには入院してもらって、浣腸を使って漢方薬を直接腸に入れる方法も試した方が良いだろうということに。
あまりに急な楊先生の提案に、患者さんはオロオロ・・・。
楊先生は1週間の短期の入院を勧める、なるべく早いほうがいいだろうと来週なんかどう?と提案。
処方をするパソコンで診察、入院の予約も取れるようで、先生はそそくさと入院手続きの画面へパソコンを操作していく。
患者さんは泣きそうな顔をして、これは大事になった、だって仕事だってあるんだし・・・。
しかしやはり健康第一、来週に入院というのはさすがに急すぎると言うことで、一先ず再来週に入院することを決め、予約もしていく。
半ば強引な感じもしましたが、でも、大事だ。
患者さんの健康がかかっているんだもの。
30代前半とはいえ、今後の人生まだ長いんだ、ここはしっかり治療をしたほうがいい、そういうことでしょう。
ふと、日本だったらどうだろうと考えた。
鍼灸師の立場として、どこまで進言できるだろう?
日本における東洋医学の立場、鍼灸師という末端の人間が、どこまでアドバイスをできるだろうか?
私はパターナリズム的な人間ではないし、市井のいち鍼灸師がここまでは言えない。
でも、本当に必要ならば、少し強く言ってもいいのかもしれない、大げさに言えば、それで患者さんの命を救えるのであれば、そこはしっかり伝えるべきであろう、そんなことを思ってみたのであります。
よく使う生薬
楊先生の後ろで見学をするばかりではありましたが、その処方の中でよく使っていた生薬がこちらです。
- 女貞子
- 枸杞子
- 覆盆子
- 桑椹
そして次に多かったのが、こちら。
- 兎絲子
- 桑寄生
- 続断
- 紅藤
- 鶏血藤
- 巴戟天
- 小茴香
様々な症状、様々年齢の方が多かったので、一つ一つ精査していかなければならないところもあります。
しかし、こういった生薬が出てくるのは、やはり婦人科ならではないかと思います。
婦人科の病気には、補血養陰や活血などが必要です。
当院ではイスクラ産業の漢方薬を扱っていますが、これらを参考にしながら今後の臨床に活かしていけるのではないか。
今回の研修はこの婦人科外来で終了ということになりますが、この婦人科外来もまた、とても趣のある、参考になる研修ができました。
病室を後にするとき・・・
時間が来てしまったので、私たちは名残惜しげに病室を後にすることになりました。
ちょっとばかり、センチメンタルであります。
あ、あぁ、あぁ。
あっという間に終わってしまったね、研修。
もう少し、もう少しでいいんだ、この空気を味わっていたいんだ。
ほんの少しでいい、時間よ止まってくれ!
止まるわけもありません、私は鍼師、はりははりでも、ハリーポッターではありません。
私は少しでもこの空気を納めようと、振り返ってカメラのシャッターを切るのでありました。
空気は私たち研修生がいない病室に戻り、楊先生の日常がまたやってくるのでありました。
このように、最後も楊先生には時間がありませんでしたので、恒例となっていた先生との記念撮影は、今回はなしでありました・・・。
ほんとに、ほんとに、後ろ髪を引かれる思い。
これで研修が終わってしまったのです、あぁあぁ。
心の中には充実感と寂しさが入り交じってとても複雑な思いになりました。
熱く素晴らしい日々は、いつの間にか心の中へ。
放心、寂寥感、心地よい熱、明日からどこへ・・・。
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