『養生訓』を読む 第11回
人の命は我にあり、天にあらず
原文(巻之一・総論上・8章)
人の元気は、もと是天地の万物を生ずる気なり。是人身の根本なり。人、此気にあらざれば生ぜず。生じて後は、飲食、衣服、居処の外物の助によりて、元気養はれて命をたもつ。飲食、衣服、居処の類も、亦、天地の生ずる所なり。生るるも養はるるも、皆天地父母の恩なり。外物を用て、元気の養とする所の飲食などを、かろく用ひて過さざれば、生付たる内の元気を養ひて、いのちながくして天年をたもつ。もし外物の養をおもくし過せば、内の元気、もし外の養にまけて病となる。病おもくして元気つくれば死す。たとへば草木に水と肥との養を過せば、かじけて枯るるがごとし。故に人ただ心の内の楽を求めて、飲食などの外の養をかろくすべし。外の養おもければ、内の元気損ず。
現代語訳
人の「元気」というものは、もともと天地が万物を生み出す根本の気であり、人の身体のいちばん大切な土台である。人はこの気がなければ生きることはできない。出生したあとは、飲食・衣服・住まいといった外からの助けによって元気が養われ、命が保たれている。
その飲食や衣服、住まいもまた、すべて天地によって生み出されたものである。生まれることも、養われることも、すべて天地と父母の恩によるものだ。外から取り入れるもの――とくに飲食などを、軽やかに用い、行き過ぎなければ、生まれつき備わっている内なる元気が養われ、命は長く保たれる。
しかし、外からの養いを重くしすぎると、内なる元気はそれに負けて病となる。病が重くなり、元気が尽きれば、人は死に至る。これは、草木に水や肥料を与えすぎると、かえって根が傷み、枯れてしまうのと同じである。
だから人は、ただ心の内の安らぎや楽しみを大切にし、飲食など外からの養いは軽やかにすべきである。外の養いが重くなればなるほど、内なる元気は損なわれてしまう。
解説
全ては頂き物である
この章の前半は、これまで話してきたことを繰り返しているわけですが、ここで重要なのは、私たちのこの生命だけではなく、衣食住という外的な物質も、すべてにわたって天地とのご縁でいただいたものだという指摘です。
とかく私たちは自分の実力で全てを手にしていると思いがちですが、これは人間の傲慢さ、驕りではないかと、貝原益軒は警告しているのだと思います。父母の恩とありますが、これは、最も身近な天地の代表としての父母を挙げているのであって、父母を含めた、自分を取り巻く大きな自然や宇宙といったことになります。
元気は「足すもの」ではなく「守るもの」
私たちの周りには、たくさんものが溢れています。
そして私たちは、多くのものを欲します。
私なども、写真を撮ることを趣味としているので、あのレンズで撮ったらさぞかしいい写真が撮れるのではないかと想像し、ついつい中古でオールドレンズを買ってしまうなんてことがあります(反省)。
これと同じように、健康も、何かを足せば達成できるのではないかと勘違いすることも多いのではないでしょうか。テレビショッピングで「○○が膝にいい」と聞くと買ってみたり、テレビで芸能人が「○○を飲んで健康になった」などと聞くと、ついつい足してみたくなるものです。
- 栄養を足す
- サプリを足す
- エナジードリンクを足す
- 刺激を足す
といった具合に、現代は「加算の養生」が主流です。
しかし、益軒はその真逆なのです。
つまり、余分なものは入れないこと、足しすぎないこと、それが益軒が伝える養生法です。
これはまさに、
過ぎたるは及ばざるが如し
東洋医学・中医学では、必要以上に多くあることを「有余」と言います。
代表的なものとして、「瘀血(おけつ)」が挙げられます。この瘀血は、様々な要因で生じるものですが、飽食の現代で多いのは、砂糖が多いとか、炭水化物が多いとか、そして美食だとか、そういった偏った食事がその原因となることが多くあります。
通常の消化力を超えたものを常時摂っていると、処理しきれなかった悪露が体に溜まっていって、瘀血に変わっていったりします。
まさに、養いを多くし過ぎてしまうと、かえって内なる元気を損傷してしまうことになってしまう、益軒の指摘通りになってしまいます。
良かれと思ってやっている“足す養生”が、自分の元気を毀損してしまうというのは、なんとも皮肉で、そして、なんとも現代的な病気の始まりになってしまうことになります。
外の養い > 内の元気 になると病が始まる
飲食・嗜好・快楽が主役になり、身体の声や心の静けさに対して耳が閉ざされてしまうと・・・
- 脾胃は疲弊し
- 気血は滞り
- 病は静かに進行する
ガンや糖尿病など、いわゆる生活習慣病(かつては成人病と言われているもの)は、このような過程によって起きると東洋医学・中医学では考えています。益軒は、過剰な栄養による損害を、水や肥料を与えすぎた草木 に例えています。つまり、水をやり過ぎたり、栄養を入れ過ぎたりして根腐れしてしまうことを、人間の健康に喩えて言っているわけです。
まとめ 源保堂鍼灸院の見解
養生とは、
「何を足すか」ではなく「何を軽くするか」
- 食べすぎない
- 刺激しすぎない
- 依存しすぎない
そして、
心の内が楽であることを最優先にする。
多くのものを背負ってしまうと、とても歩くのが大変です。
本当に必要なものだけを手にしていけば、軽やかな足取りで歩くことができます。
とかく現代は、多くの余計なものをまといがち。
そしてそれがまた華美に見えて、カッコ良くも見えるものです。
しかし、それを維持していくことは大変なことで、無理を重ねて体や心に負担をかけていることになります。
断捨離という言葉がありますが、手元にあるものを一度整理してみて、無駄なものを排除していくことは、生活を軽くして、体を軽くする養生です。
これは、現代人にとって
「いちばん難しく、いちばん大切な養生」となりますね。
そして、内側にある心のあり方を大切にすること。
これは単なる教訓的なことではなく、内側と外側の元気の不均衡を作らないようにする、実践的な養生の姿勢となります。
心を軽く、楽しくするために、自分の内面を磨くことを心がけたいなと思います。
同じカテゴリーの記事一覧
参考図書
定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
『養生訓』に関連する本

源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
Save Your Health for Your Future
身体と心のために
今できることを



