『養生訓』を読む 第9回
寿命はみんな長く与えられている
原文(巻之一・総論上・6章)
凡(すべて)の人、生れ付たる天年はおほくは長し。天年をみじかく生れ付たる人はまれなり。生れ付て元気さかんにして、身つよき人も、養生の術をしらず、朝夕元気をそこなひ、日夜精力をへらせば、生れ付たる其年をたもたずして、早世する人、世に多し。又、天性は甚(はなはだ)虚弱にして多病なれど、多病なる故に、つつしみおそれて保養すれば、かへつて長生する人、是又、世にあり。此二つは、世間眼前に多く見る所なれば、うたがふべからず。慾を恣にして身をうしなふは、たとえば刀を以て自害するに同じ。早きとおそきとのかはりはあれど、身を害する事は同じ。
現代語訳
すべての人は、生まれつき授かった寿命(天年)は、もともと長いものです。生まれつき寿命が短い人というのは、実はとても稀です。
生まれつき元気があり、体の強い人でも、養生の方法を知らずに、朝夕に元気を消耗し、日夜の生活で精力を減らしていくと、本来の寿命を保つことができず、早死にしてしまう人が多くいます。一方、生まれつき虚弱で病気がちで、短命に見えるような人であっても、病弱であるがゆえに日頃から慎み深く、恐れをもって養生に努めれば、かえって長生きする人もいます。
この二つの例は、世間の目の前にたくさん見るもので、疑う余地はありません。欲望のままに生活し、自分の体を傷つけることは、刀を使って自らを傷つけるのと同じです。ただ、死に至る“早い・遅い”の違いがあるだけで、身を害しているという事実はまったく同じなのです。
解説
本来長いはずの寿命
貝原益軒はここで、「ほとんどの人は、生まれつき長く生きられる運命を持っている」と断言します。これはすごいことだと思いませんか?
どの人も、十二分に長い寿命を持っている・・しかしそれを短くしてしまうのは自分の養生が足りないからだと言い切っているのです。もちろん、寿命の長さイコール人生の豊かさではないので、寿命だけが人生の尺度になるのは違うと思いますが、それでもやはり人生の成果の一つとしてあげていいものです。
益軒によれば、それが実現するかどうかは 養生の実践にかかっていると説いているのです。
生まれつきなのか?
生まれつき丈夫でも、養生しない者は早死にしてしまうことがある、これは周りを見渡すと、そうかなと思うところもありますよね。
元気旺盛で体力がある人ほど、以下のようになりがち・・・
- 不摂生
- 暴飲暴食
- 過労
- 情緒の乱れ
よく“生命を削る”と言いますが、その言葉の通り、本来ある寿命のロウソクを日々削っている人が少なくありません。そんなことを続けていると、“もともとの寿命”を使い切らずに亡くなる人が多いと益軒は述べます。
生まれ持って虚弱体質でも・・・
しかしその一方で、見るからに生まれつき虚弱な人でも、長生きしている人も多く見かけます。これは、自分の体力のリミットをわきまえているからで、慎み深く養生すれば長生きするということを実践している方です。何か行動する際に、自分の体力と相談しながらやるために、以下のようなことを心得ているのではないでしょうか。
- 滋養
- 節度
- 無理をしない
- 心を平らかにする
こうした養生を心がければ、生まれ持って虚弱な人でも、むしろ長生きできる人が多い、ということです。これはサーチュイン遺伝子のように、節制をすることによって心身を活性化し、長生きに向かわせる生体機能があるという現代の医学の視点から見ても、非常に合致する考えです。
慾をほしいままにするのは「刀で自害するようなもの」
益軒はここで強烈な例えを用います。
“慾望に溺れて身を損なうのは、刀で自分を傷つけるのと同じだ”
時間の差はあれど、結末は同じ。
ゆえに、欲を節し、身を守ることこそが、天から授かった寿命をまっとうする道だと説いています。
まとめ 源保堂鍼灸院の見解
日々の臨床をしていても、元気な人、そうでな人、病気でも回復が早い人、遅い人などなど、その状況は千差万別です。こういった多くの人々の状況を見ていますと、体質より「生き方」が寿命や健康を左右する割合がとても大きいと感じます。
鍼灸の古典でも、
- 天年(生まれ持つ寿命)は長い
- しかし欲望や不摂生がそれを削る
と繰り返し述べられています。
特に現代は、
- 長時間労働
- 24時間情報ストレス
- 夜型生活
- 飲食の過多
- 感情の起伏の大きさ
…と、「元気を削る生活」になりやすい環境にあります。益軒の教えは、まさに現代人にこそ必要です。
養生のポイント
- 丈夫な人ほど、養生が必要
→ 無自覚に自分の体を酷使しているから。 - 虚弱な人は、慎み深い分だけ長生きしやすい
→ 養生に自然と近づいている。 - 慾(食・性・睡眠・言葉・感情)をゆるめすぎない
→ 慢性的な気の消耗を防ぐ。 - 天年をまっとうするには「毎日の小さな慎み」
→ 特別な方法ではなく、基本の積み重ね。
以上のようなポイントを意識しながら、日常生活を送ってみてくださればと思います。かくいう私自身も行き届かないところがありますので、身を引き締めて毎日を過ごしていこうと思います。
定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
『養生訓』に関連する本

源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
Save Your Health for Your Future
身体と心のために
今できることを
同じカテゴリーの記事一覧








1件のコメント