『養生訓』を読む 第7回
減らす、控える、守りから
原文(巻之一・総論上・4章)
養生の術は、先(ず)わが身をそこなふ物を去べし。身をそこなふ物は、内慾と外邪となり。内慾とは飲食の慾、好色の慾、睡の慾、言語をほしゐままにするの慾と、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情の慾を云。外邪とは天の四気なり。風・寒・暑・湿を云。内慾をこらゑて、すくなくし、外邪をおそれてふせぐ、是を以(て)、元気をそこなはず、病なくして天年を永くたもつべし。
現代語訳
養生の方法は、まず自分の身を損なう原因を取り除くことから始まります。
身体を損なうものには「内慾(ないよく)」と「外邪(がいじゃ)」があります。
内慾とは、人の内側から生じる欲望のことです。
たとえば、飲食の欲、色(異性)への欲、睡眠の欲、言葉を好き勝手に使う欲、さらに「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」という七つの感情の乱れも含まれます。
外邪とは、外からやってくる自然の影響、つまり「風・寒・暑・湿」の四つの気です。
この内慾を抑えて少なくし、外邪を恐れて防ぐことができれば、元気(生命力)を損なわず、病にかからず、天から授かった寿命を長く保つことができるのです。
解説
まずはディフェンスから
この章では、まずは身体の健康を損なう原因を取り除くようにしなさいと述べています。“これをしなさい”というのが積極的な養生だとするならば、これはディフェンシブ(守り)の発想ではないかと思う。人は兎角、“〜をしてはいけません”という否定には反発したくなるもので、なかなか受け入れ難いものがあるものです。『養生訓』の作者である貝原益軒もそこは百も承知だろうが、やはりまずはディフェンスが大事だということを強調したいのだろうかと思う。
内慾と外邪
次に益軒は、人が健康を損なう原因を大きく二つに分けます。
それが、内慾(ないよく)と外邪(がいじゃ)。
内慾とは、現代でいうところの精神的なストレス。これは、心の乱れを主としながら、生活習慣の乱れなども含んでいます。
そして次の外邪は、外気や気候によるもの。寒いとか、暑いとかのことを指しています。
この二つの内慾と外邪によって、私たちの体と心は常に揺れ動き、ときに我慢を超えてしまって不調になるわけです。
内慾とは、いってみれば「自分の内側になる心の暴走」です。そして外邪とは、「外の環境の影響」となります。もし今、心と身体のどこかに不調を感じているのであれば、この両方に目を向けることが養生の第一歩だと説いているわけです。
これは端的に言えば、二つに大別できるのだから、何か起きた時はまずは俯瞰してみようということでもあると思います。自分の体に不調があるとき、私たちは余裕がなくなります。余裕がなくなると、どうして?なんで?どうして私だけ?と、どんどん深みにハマってしまって、出口が見えなくなってしまいます。そうならないよう、まずは二つに分類して落ち着くこと、それだけで解決の糸口が見えてくるものです。
益軒はここで、「まずは減らすこと」「控えること」に重きを置いています。
足す前に、削ぐこと。
入れる前に、整理する。
これが江戸の“静かな養生”の本質です。
まとめ 源保堂鍼灸院の見解
この章は、現代にこそ強く響く内容ですね。
現代人は「健康になるために何を足すか(サプリ・運動・治療など)」を考えがちですが、まずは「何を減らすか」「何を遠ざけるか」が先なのです。出すからこそ、入ってくるわけですね。
たとえば内慾をいくつか挙げてみると、以下のようなものがあります。
- 過食・過飲
- 情報の摂りすぎ(言語の慾)
- 感情の起伏
これらが日々、私たちの「元気=エネルギー」を削っています。外邪も同様に、冷え・湿気・エアコンの風・季節の変化など、現代の生活環境の中で形を変えて存在しています。
つまり、心身をいたわるとは、まず“攻めの健康”ではなく“守りの健康”から始まるということ。鍼灸でも、気の流れを乱す要因(内慾と外邪)を整えることで、病の根を絶つことを目的としています。
定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
『養生訓』に関連する本

源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
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