『謝謝、北京!ー北京研修日誌(2の2)』鍼医の心との触れ合い

北京研修の旅 北京中医薬大学・日本校(日本中医学院)(C)表参道・青山・原宿・渋谷エリアにある源保堂鍼灸院

譚先生の矜持、そして心に触れる

前回の記事では、譚先生と最初から仲良く会話ができたように書きましたが、実ははじめからそこまで気軽にお話しができたわけではありませんでした。

研修初日の私たちは、勝手が分からない。
そして緊張もしている。
さらに加えて譚先生の空気感に圧倒もされている。
どのくらいの距離で譚先生と接して良いものか、質問はどのタイミングでして良いのか、写真はどこまで撮って良いのか・・・。
柔道で言えば、積極的に組みに行っても相手に切られてしまう感じだ。

そんなこともあって、最初は遠巻きに先生の手技を見ていました。


しかしある瞬間から、譚先生との距離が一気に縮まったのです。

その瞬間は、こんな感じでふいに訪れました。

様々な患者さんが次から次へとやってくる中で、ほんの数分ではありましたが、患者さんが途切れるときがありました。
その時にみなでイスに座って、ようやくここで自己紹介のような時間ができたのです。

「あなたたちは、普段はどんな仕事してるの?どうして研修に来たの?」と譚先生が質問をしてきました。

そこで私の順番が回ってきて、「日本で鍼灸師をしています」と答えますと、

なんと、
それまで厳しい表情をしていた譚先生は、

おぅ!そうなの!?

と笑顔を見せてくれたのです。

顔をほころばせ、一瞬にして心が開かれて、一気に打ち解ける空気が拡がったのであります。

この瞬間にカメラを向けているわけではありませんので、その時の表情をご覧に入れられないのが残念なのですが、その瞬間、その時の表情を、私は今でもはっきりと覚えております。
この瞬間、この時に、譚先生と心が通じ合ったと確信しました(勝手な妄想かもしれませんが)。

譚先生も、
「日本ではどんな症状を持った患者さんが来るんですか?」
「日本ではどのような鍼をするんですか?」
と興味深げに聴いて下さるようになりました。

私はその時には当初の緊張からは少しばかりほぐれてはいたのですが、それでも多少のぎこちなさが残っておりますから、うまく説明することができなかったのです。それが今思い返すと残念です・・・。もう少し筆談でも良いから、落ち着いて伝えることができたら良かったのになと思っています。

ここから譚先生は、いろいろと先生自身の流儀をお話ししてくれました。

その流儀の一つが、奇経八脈の八宗穴治療を多用しているということ。

教科書的に言えば、八宗穴治療は急性期のものに有効とされています。
しかし譚先生曰く、八宗穴治療は症状がなかなか好転していかないときの切り札的なものと紹介してくれましたので、どちらかというと慢性的な膠着状態に良いということでした。

これは私にとってはとても意外です。
私は自分の鍼灸では奇経八脈を多用しています。
私の場合は八宗穴治療ではありませんが、譚先生同様に、奇経八脈のツボは慢性的な疾患によく使います。
教科書的な説明とは逆なのですが、これが私の経験上の流儀。
ですので、譚先生の説明を聞いて、密かに“我が意を得たり”と思ったのであります。

この奇経八脈のお話しの他にも、透刺という方法についてもアドバイスをいただきました。

ツボには、裏と表に対照的に存在するものがあります。
例えば手で言えれば、内関と外関というのが手首の少し上にあります。
この内関と外関を貫くようなイメージで、例えば内関から外関に向かって鍼をするのが透刺になります。
譚先生はこの透刺もよく使っているとのことで、鍼を刺す方向がとても大切であると教えてくれました。
「もし両方から刺せるのであれば、二本の鍼を使って内関と外関を同時に使うのがより効果的ね。」というお話しも。
このお話しを聴いても、譚先生がいかに鍼を刺す角度や方向にこだわっているのか、その意味がよく分かりますね。

また、体にはいくつもの反射ゾーンがあり、それらを使って鍼をすることもあるのですが、
譚先生は、「私は使わないから効果のほどは分からないけど、こんなものもあるわよ。」と言って、顔の側頭から頬、顎にかけてある反射ゾーン、「頬針」の図を教えてくれました。

あらゆる手段で

東直門医院では、中医学・東洋医学の手段をフル稼動させています。

吸玉治療

例えば吸玉(すいだま)。
吸角(きゅうかく)、カッピングなどとも呼ばれるもので、熱したガラスの容器を患部にカポッと付けて吸い込ませるものです。

私も鍼灸を学びはじめた頃は、いろんなことをやってみよう!という思いで、こういった火を使う吸玉を使ったことがあります。
友達をモデルにしてやったことがあるのですが、その時はカッピングが買えなかったので、ヨーグルトのガラス容器でやったこともありました。それでもできるんです、しっかりと密着させれば。
最近では火を使わないポンプ式でやるものもありますね。

漢方薬の処方

そして内科的な症状がある場合や、患者さんからのご希望があれば、漢方薬も処方します。

こちらはとある患者さんに処方された内容(プライバシーのため、名前などは加工してあります)。

細かい字なので少し読みにくいかと思いますが、上の行に「全蝎」「地竜」という文字が見えます。

これは、
全蝎=サソリ
地竜=ミミズ

こんなものが処方されるなんて、やっぱり漢方や怖い!と思われますか?

全蝎も地竜も、どちらも昔から使われる動物生薬。
全蝎と地竜には、「通絡」という作用がありまして、これは、“経絡を通す”というはたらきです。
この漢方薬を処方された方は、症状として顔面麻痺がありました。
麻痺は、経絡の流れが閉ざされていると考えますので、それを通すための全蝎と地竜なのだと思います。

あらゆるものを使うのは、漢方薬の真骨頂。

ここ、東直門医院は、中医学にあるあらゆる手段を総動員する、これが中医の底に流れるスピリッツなのかもしれませんね。

名残惜しくも・・・

ようやく譚先生にも馴れたかなと思ったところで、時間は来てしまいました。
研修初日、午前の診療も終わりです。
緊張からはじまり、あっという間の出来事でした。

いろいろと鍼灸のことについても学ぶところがありました。
しかし私にとってそれ以上に大切に心に留めたのが、「矜持」、「スピリッツ」です。

鍼灸師は、患者さんに自分の全力を尽くします。
そのため、常に気力、体力ともに充実していることが大切になります。

しかし、鍼灸師も人間です。
ときには体も心も疲れることもあります。

でも、そんなことも吹き飛ぶくらいのスピリッツをこの研修で感じることができました。

譚先生の機敏で緊張感のある姿。
そして、日本の鍼灸師である自分のことを、同じ立場にあるとして認めてくれたこと。
同じ土俵に立って、切磋琢磨している間柄にあることを認めてくれたこと。

このことが、私の心の奥にしまい込んでいた矜持を呼び覚ましてくれたように思います。
矜持と矜持の共鳴といったところでしょうか。

正直、私は、鍼灸師になって損したなぁと思うこともあったし、後悔することもありました。
しかし、この日、この瞬間、私は鍼灸師になって本当に良かったなぁという実感が持てました。
もし鍼灸師になっていなかったら、このような言葉を超えた仕事人同士の交流ってなかったと思う。

この道に進んで良かったな・・・。
私には私の師匠がいて、私には私にしかできない鍼があり・・・。

この湧き上がる想いこそが、この研修に参加した大きな成果だったのではないかと思うのであります。

記念撮影を終わって部屋を出る際に、私は、譚先生のデスクに置いてあった粒が気になって尋ねました。
その粒とは、王不留行(おうふるぎょう)という天然のもの。

もう本当に最後の最後ですが、私が王不留行の粒を指さして、「これも臨床で使うんですか?どんな時に使うんですか?」と尋ねると、

譚先生は、「ほしいの?」と。

私は、「え、あ、いや、そんなあつかましいお願いではなくて・・・何に使うのか、どんな時に使うのかなって・・・」

譚先生は、「いいわよ、ならどうぞ」と言って、新しい王不留行を出して、私たちにプレゼントしてくれました。

私は自分も日本製の粒(当院で使っているマグレイン)をカバンに忍ばせていたので、それをお返しにお渡ししました。

すると譚先生は、「お!謝謝!」と笑顔で。
「これは何でできているの?」
「金と銀と・・・合金です。あ、これもどうぞ、こちらはチタンです。」

と、通訳の孫先生を挟んでお話をしてお別れをしました。

手持ちのマグレインがもっとあれば良かったよな、実は鍼も持っていたんだけど、見せたり渡したりしても良かったか、いや、日本の細い鍼を見せたって・・・あ、いや、あ、でも・・・。

何だか私の気持ちは不完全燃焼。
自分の感謝の気持ちは伝えきったか?

病室を出てしばしぼーっと放心状態。

しかし、私の心には、確かにあたたかい矜持という名の灯火が、確実に、確実に輝いていたのであります。

謝謝、譚先生!

中医学を学ぶなら
中医学を本格的に学びたいならば、日本中医学院をお薦めいたします。 中医師の先生が疑問に答えてくれます。 この記事でご紹介しました研修も、日本中医学院で参加したものです。
中医のコース以外にも、薬膳科、気功科などもあるので、ご興味のある方は尋ねてみて下さい。
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源保堂鍼灸院の院長をしています。

“人生を楽しく過ごすこと” 、これが東洋医学の根幹にあります。
つらい症状で人生までもが暗くならないよう、豊かな人生のためのご相談にのれたらと願っています。

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