『養生訓』を読む 第15回|畏 ― 養生を支えるたった一字
畏は敬うと同じ意味だった
原文(巻之一・総論上・12章)
身をたもち生を養ふに、一字の至れる要訣あり。是を行へば生命を長くたもちて病なし。おやに孝あり、君に忠あり、家をたもち、身をたもつ。行なふとしてよろしからざる事なし。其一字なんぞや。畏(おそるる)の字是なり。畏るるとは身を守る心法なり。事ごとに心を小にして気にまかせず、過なからん事を求め、つねに天道をおそれて、つつしみしたがひ、人慾を畏れてつつしみ忍ぶにあり。是畏るるは、慎しみにおもむく初なり。畏るれば、つつしみ生ず。畏れざれば、つつしみなし。故に朱子、晩年に敬の字をときて曰、敬は畏の字これに近し。
現代語訳
身体を保ち、生命を養うためには、たった一つの極めて重要な要訣があります。これを実行すれば、命は長く保たれ、病にもなりません。親に対しては孝を尽くし、主君に対しては忠を尽くし、家を保ち、身を保ち、あらゆる行いにおいて良くないことがなくなります。
その一字とは何か。
それが「畏(おそれ)」です。
畏れるとは、身を守るための心のあり方です。
あらゆることにおいて、心を控えめにし、気のままに行動せず、過ちがないように努め、常に天の道をおそれて慎み従い、人の欲をおそれて、これを慎み忍ぶことです。
この「畏れ」は、慎みへと向かう出発点です。畏れがあれば慎みが生まれ、畏れがなければ慎みは生まれません。だからこそ朱子は晩年に「敬」という字を説いて、「敬とは畏に近いものである」と言ったのです。
養生の極意は、たった一字にある
『養生訓』の中で、貝原益軒はこう述べます。
身体を保ち、命を養うためには、数多くの方法があるように見えて、実はたった一つの要訣に帰着すると。
その一字とは何か。
それが「畏(おそれ)」です。
畏れとは何か ― 恐怖ではなく、整える力
ここでいう「畏れ」とは、単なる恐怖ではありません。
何かに怯えることでも、萎縮することでもなく、自分を崩さないための、静かな緊張です。
人は、気が緩んだときに過ちを犯します。
欲に流され、無理をし、身体を損なうのも、その多くが「畏れ」を失ったときです。
益軒は、養生の技術ではなく、その前提となる「心の姿勢」を示しています。
なぜ畏れがあると、人は健康でいられるのか
人が体を壊すのは、知識がないからではありません。
多くの場合、「分かっているのにやめられない」ことが原因です。
では、それを止めるものは何か。
それが「畏れ」です。
- 食べすぎればどうなるか
- 無理をすればどうなるか
- この体は失えば戻らないという事実
これらをどこかで感じている人は、自然と節度を守ります。
畏れとは、行動を縛るものではなく、
行動を正しい方向へ導くものなのです。
源保堂鍼灸院としての考え
鍼灸の臨床の現場でも感じることですが、健康を保てる人と崩す人の違いは、ほんのわずかではないかと思うのです。
それは、「無理をしない人」と「無理をしてしまう人」・・・この差です。
そしてその差の根底にあるのが、自分の身体に対する“畏れ”です。
自分の身体を軽んじないこと。
そして命を雑に扱わないこと。
その感覚がある人は、自然と養生の道を外れません。
しかし昨今これが難しいのは、自分一人が“命を大切にしよう”と思っていても、周りからの雑音が多いことではないでしょうか。学校や会社などの人間関係もさることながら、インスタグラムやX、TikTokといったSNSは、圧倒的な情報量で私たちの気持ちを煽り、そして生活を蹂躙していきます。自分を保つことも、そう簡単ではない時代です。
だからこそ、この貝原益軒からの提言には耳を傾けておく必要があるのではないでしょうか。
まとめ
養生とは、特別なことではありません。
SNSでは、養生に関するさまざまな情報が散乱しています。
この人いいかなと思ってフォローしておいても、なんだか自分の教室の自慢話やその勧誘、そして曝け出すだけのハリボテの私生活ばかり・・・。
そんな情報に惑わされたり、脅かされたりしていませんか?
日々の中で、ほんの少し自分を慎むことの積み重ねです。そしてその出発点が「畏れ」です。畏れがあるから、慎みが生まれる。畏れがなければ、慎みは生まれない。
畏れがある人は、壊れない。
同じカテゴリーの記事一覧
参考図書
定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
『養生訓』に関連する本

源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
Save Your Health for Your Future
身体と心のために
今できることを




