『謝謝、北京!ー北京研修日誌(2の1)』鍼医の矜持とは 

北京研修の旅 北京中医薬大学・日本校(日本中医学院)(C)表参道・青山・原宿・渋谷エリアにある源保堂鍼灸院

鍼灸科へ

北京・東直門医院での研修初日は、鍼灸科。

そう、いきなりの鍼灸なのです。
鍼灸はもちろん自分の専門。
私の心の中では、“自分は日本鍼灸界を背負って立ってるぜ!”くらいの大胆不敵さですから、よっしゃ!相手にとって不足はない、いざ出陣!(日本で鍼灸師をするには多少なりともうぬぼれも必要かも・・・)といった感じなのであります。

といいながら、ちょっと緊張。
なにせ、中国を代表する北京中医薬大学付属の東直門医院ですから。

しかしそんな緊張を十分味わう間もなく、「はい、Aチームの方、行きますよ!」で出発です。

通訳を兼ねてくれる中医師の孫慧怡先生はずんずん進みます。
私たちは心の準備もそこそこに、孫先生の後ろ姿を追いかけるように病室へ入っていくのでありました。

鍼医師・譚程先生の登場

私たちの担当の鍼灸の先生は、女性の先生です。

譚程(たん・てい)先生です。

とてもクール・・・。

私たち研修生が入ってきてもどこ吹く風。
いや、むしろ、そもそもはなから眼中に入れていないのか・・・?

パキーンとした空気・・・。

背筋が伸びる譚先生から発せられるこの空気はなんだ・・・。

緊張だよ、緊張!
これがいいんだ!
この緊張感がたまらない!
しびれる!

私たちに目もくれずに診療に集中する譚先生。

脈を診ている患者さんは、なんと、内モンゴル(遠い!)からやってきた30代男性。
顔に顔面麻痺があり、血圧も高いというし、眠れないとも言う。
他でも鍼灸を受けたが効果がなくこちらに来院したと言います。
そばには母親らしき方が付き添いでいて、とても心配そうな面持ちでした。

譚先生は真剣な表情を浮かべて診察をし、そして、「アルコールに、たばこは止めなさい!」とピシャリ。
母親も「ほら、いったこっちゃない、お前・・・」みたいな表情に・・・。

そしてベッドに男性を寝かして鍼治療が始まる。

左手に鍼の束と、消毒液を染み込ませた綿棒を二本。
そして鍼を差す手は右手のみ、片手で刺入し、そしてその手でググっと押し込んでいく。

日本ではこのような片手で刺していく鍼はあまり見ません。
大抵は鍼管と呼ばれる管に鍼を挿入し、ぴょこっと出ている鍼の頭をトントン叩いて鍼を入れていくのが日本の主流。
当院の鍼は管は使わないけれど、左手でツボを探ってそのまま押手という形を作って、右手で鍼をしていきます。つまり両手を使います。
現在日本で使われている鍼はとても細いものが多いので、片手では刺入は難しいというのもありますが、ここは日本の鍼灸と中国の鍼灸の大きな違いの一つ。

譚先生はあっという間に10本くらいは刺していったでしょうか。
この早さはもう流石と言うしかありません。

中医学の鍼灸とは?

日本でも中医学の鍼灸をやっているところはあります。
有名な先生ですと、兵藤明先生。
兵藤明先生は、北京中医薬大学出身です。多数の著書出版し、東京衛生学園専門学校で講師も務めています。
そのためか、東京衛生学園専門学校は1983年から北京中医薬大学と学術交流をはじめ、現在もこの東直門医院で研修をしているそうです。

兵藤先生の著書は一冊読んだことがありますが、私の印象では、中医学の鍼灸は型が決まっているという感じで、弁証などの基本は押さえてあるので、とても入門しやすい流派だと思います。そんな印象でしたので、ここでも割とそういった型に沿った選穴(ツボ選び)をするのかな?と思って見ていたのですが、意外にも、そういった典型的な型とは違うようなツボを使っているところが多く散見されました。

意外と中医学でも幅があるのかな・・・?

と疑問を感じていたら、譚先生が、「鍼灸は先生によって使うツボは様々で、かなり違うわよ」と教えてくれました。

そんなお話しを聞いていたら、別の診療室の男性鍼灸医が入ってきまして、腰痛の患者さんを治療するんだけどベッドを貸してもらえますか?ということに。
そこでその男性鍼灸医は空いているベッドで患者さんの腰の治療をはじめました。
それを見ながら、「この先生は痛いところしか鍼をしないの」と教えて下さり、確かに、見てみるとツボとは全く関係ないところにたくさん鍼を刺しており、なるほど、こんなにも違うものかと、良い意味で期待を裏切られました。

で、男性の先生が鍼をしたのを見てみると、実際に先生が指摘したように、とにかく痛いところ、筋肉に反応があるところに刺しました・・・という感じ。

刺している方向もバラバラで、“ツボ”は意識されていない模様。
しかしこの先生はこの流儀でこれまでやってきて、この症状のときはこの鍼術という確信を持っているわけですから、これはこれで効いているのだろうと、これもまた一つの方法論とし“アリ”なのです。
日本にも同じように、「ツボなんてものはない!筋肉に打てば良い!」と主張する鍼灸師もいますし、実際にそれが功を奏することもあります。

でも、私たちの担当である譚先生は、鍼の方向、鍼を刺す角度などにはしっかりこだわっていました。
上の写真と全然違うのが一目瞭然ですよね。

つまりそこには、こういう理由で、こういう効果を出したいから、こういう鍼をするんだ!という明確な意図があると言うことなのです。
ただ刺している、ただたくさん刺せばいい、凝っているところに刺せば良い、それだけじゃないのです。

例えばこの患者さんは五十肩でいらした方。

痛いところをチェックしていきます。

そして実際の治療で、先ほど確認した患部に鍼をしていきます。

これは、皮膚に対して水平に打つ方法で、水平刺と言います。

譚先生は左手の指で、水平に打つところを押さえておりますが、さらに刺入していくときに、刺入と同時に押さえている皮膚も揺らしていきます。
私がこの刺入を凝視していると、

「これは、私のオリジナルで、他の鍼灸師はしないわね。」と説明してくれました。

まさに、譚先生には、譚先生の“流儀”があるのです。
そう、それは譚先生の、“矜持”。
そして鍼灸医としての、“矜持”なのであります。

中医学の鍼灸を型としか認識していなかった私にとって、これはとても大きな発見でした。

日本の鍼灸は、多くの流派があります。
師匠の筋によってかなり違いがあったりします。
日本鍼灸界は、これを良い面と捉えて「日本鍼灸の多様性」と呼んだりしていますが、あにはからんや、中国の鍼灸も多様性があるようです。

[su_box title=”中医学を学ぶなら” box_color=”#4db119″]中医学を本格的に学びたいならば、日本中医学院をお薦めいたします。 中医師の先生が疑問に答えてくれます。 この記事でご紹介しました研修も、日本中医学院で参加したものです。
中医のコース以外にも、薬膳科、気功科などもあるので、ご興味のある方は尋ねてみて下さい。
https://www.jbucm.com/[/su_box]

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瀬戸郁保 Ikuyasu Seto

源保堂鍼灸院の院長をしています。

“人生を楽しく過ごすこと” 、これが東洋医学の根幹にあります。
つらい症状で人生までもが暗くならないよう、豊かな人生のためのご相談にのれたらと願っています。

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