ストレス社会と鍼灸の役目
東洋医学では、病気の原因を外因、内因、不内外因と三つに分けます。外因は外から身体に侵入するもので、六淫と呼ばれる気候、暑い寒いなどの影響を指します。そして、内因は、身体の内側から起きるもので、感情や精神の揺れ動きやストレス、また、飲食物や過度に身体を動かした場合の労倦(疲れ)などが含まれます。そして、三つ目の不内外因とは、外因でも内因でもないものを指し、ここには虫刺されや、蛇にかまれた、怪我などが含まれます。
東洋医学における病気の原因の分類
病気の原因は大きく分けると三つになります。
外因六淫(風・熱・湿・燥・寒・火)
内因七情内傷 ←感情・精神的ストレス
飲食労倦
不内外因
このような東洋医学の分類でいきますと、感情的、精神的なストレスは、内因の中にある七情内傷というものになります。ストレスの原因は自分の外から来るもの(例えば誰かに怒られたりは、外からやってくるものになります)ですが、それに反応する内側が動揺することによって内因となり、身体に影響が出てきます。例えば急に何かトラブルに巻き込まれたとき、まず急なことに対しての“驚き”、そして、どうやって解決したらいいかとあれこれ気を揉む“憂い思い”という形で、感情と精神が揺さぶられます。
その七情と、影響を受ける臓器は、下の表のようになっています。この表は縦に見ていくものなのですが、それぞれの五臓に、感情を表す五志というものが配当されています。この配当を参考にしますと、どの感情がどの臓器に影響を与えるのかが分ります。例えば、“怒り”は、そこに配当されている肝臓に影響を与えることになります。怒りは、“怒髪天を突く”ともいうように、身体の気を上に上らせます。気が上りますと、頭に気が上がりますので、頭痛や頭が重くなったり、また目が赤くなったりという症状が出るという基本的な影響が分り、この分析をすることによって、治療するべきツボを見出すことができます。
ストレスというものは目に見えません。内側で起きる感情もまた、目に見えるものではありません。そして、同じストレスであっても、その人がどのように受け止めるかは、人それぞれで異なるので、数値化することは難しいものです。そのため、数値化して診断していく西洋医学にとって、この精神的・感情的ストレスというものは、対処の難しいものの一つになります。
一方東洋医学では、上述してきたように、感情や精神的ストレスを内因として認識し、それをさらに分類する方法が古来より存在しております。これは、つまり、東洋医学がストレスの治療にも効果があることを示すものです。実際の臨床においても、このストレスの分類方法は、現在にも活用できるものであり、治療としても効果が上がるものということがわかっております。
生命活動とは、常に何らかのストレスに影響を受けています。心の波をフラットにしたいと、“悟り”のための座禅なども生まれたのかもしれませんが、なかなか普通の人が、普通の生活の中でできるものではありません。かといって、このストレスへの対処を何もせず、毎日の生活の中でストレスにさらされ続けていると、身体と心は磨り減り、内因となっていきます。鍼灸が、このストレス社会に担う役目として、このストレスによる影響を除去していくこと、ストレスにやられない抵抗力を身体に戻してあげることなどが挙げられます。心身ともに健康な社会に貢献できるように、鍼灸の普及と研鑽を続けていきたいと思います。
七情の分類
五行
木
火
土
金
水
五臓
肝
心
脾
肺
腎
五志
怒
喜
憂思
悲
恐驚
五精
魂
神
意智
魄
精志