『養生訓』を読む 第四回
命は天地父母からの授かりもの
原文(巻之一・総論上 冒頭・後半)
此如くならむ事をねがはば、先(まず)、古の道をかうが(考)へ、養生の術をまなんで、よくわが身をたもつべし。是人生第一の大事なり。人身は至りて貴とくおもくして、天下四海にもかへがたき物にあらずや。然るにこれを養なふ術をしらず、慾を恣にして、身を亡ぼし命をうしなふ事、愚なる至り也。身命と私慾との軽重をよくおもんぱかりて、日々に一日を慎しみ、私慾の危をおそるる事、深き淵にのぞむが如く、薄き氷をふむが如くならば、命ながくして、ついに殃(わざわい)なかるべし。豈(あに)、楽まざるべけんや。命みじかければ、天下四海の富を得ても益なし。財の山を前につんでも用なし。然れば道にしたがひ身をたもちて、長命なるほど大なる福なし。故に寿(いのちなが)きは、尚書(=書経)に、五福の第一とす。是万福の根本なり。
現代語訳
このように、長く健やかに生きたいと願うのであれば、まずは昔からの道というものを考え、養生の方法を学び、しっかりと自分の身を保たないといけない。
これこそが人生において最も大切なことです。人の身体に至っては、この上なく尊く重いもので、天下四海に代わるものがありましょうか、いや、ないでしょう。これほどまでに大切なものであることを知りながら、養生の仕方を知らないで、自分の欲望のままに過ごして身体を壊し、命を失うのは愚かさの極みであります。自分がこの世に生を受けた使命ともいうべきものと、私欲のどちらが重いかをよくよく考えて、日々の生活を慎み、私欲の危険を深い淵に臨むように、また薄い氷を踏むように慎重にすれば、命は長く保たれて、ついには災いも避けられるでしょう。どうしてこれが喜ばしくないはずがありましょうか。もし命が短ければ、天下のすみずみに及ぶ富を得たとしても意味はなく、財宝を山のように積んでも役に立ちません。ですから、養生の道に従って身を保ち、長生きするほどにそれ以上の大きな幸福はありません。『尚書(書経)』にも、長寿は五つの幸福の第一であり、すべての幸福の根本であると記されています。
解説
自分の体を大切にする長寿
益軒はここで、養生の学びと実践を「人生第一の大事」と断言しています。命は富や財よりも価値があり、欲望と命を天秤にかければ、どちらが重いかは明らかだというわけです。また、欲の危うさを「深い淵」や「薄い氷」にたとえ、常に慎重さを忘れないことの重要性を説いています。そして結びでは、長寿はあらゆる幸福の土台であり、健康な寿命こそが人生最大の富であると強調します。
まとめ 源保堂鍼灸院の見解
東洋医学の世界でも、「長寿=ただ命を伸ばすこと」ではなく、「健やかに生き続けること」を意味します。これは益軒が説く「長命=万福の根本」と一致します。私たちは施術を通して、患者さんが日々の生活で無理をせず、欲と上手に付き合い、健康な心身を維持できるようお手伝いしています。命を守ることは、自分だけでなく、家族や周囲の幸せの基盤を守ることでもあります。
定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
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源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
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