〖今週のひとこと養生訓〗残暑に梨!!|残る暑さを冷まし、秋の肺を潤す食養生

この記事の要点
イントロ | 夏と秋のあいだに、梨が実る
処暑を過ぎても、今年の暑さはなかなか退いてくれません。
お盆の頃に一度暑さがやわらいだので、その分、残暑が厳しく感じられますよね。
昼間の日差しにはまだ夏の力があり、外を歩いたり動くと汗がにじみます。
それでも、朝夕の風や日の傾きに目を向ければ、盛夏とはどこか違うものが混じり始めています。季節は暦を境にぱたりと姿を変えるのではなく、前の季節を残しながら、次の季節を少しずつ招き入れます。
そんな夏と秋の境目に旬を迎えるのが、梨です。ひと口かじれば水気があふれ、暑さの名残を静かに鎮めてくれる。そのみずみずしさは、これから乾燥へ向かう身体にもありがたいものです。梨はただ秋を告げる果物ではありません。夏から秋へ移ろう身体に、ちょうど橋を架けるような食べ物なのです。
今週のひとこと養生訓
処暑を過ぎても、身体にはまだ夏が残っている
「処暑」という言葉には、暑さがおさまっていくという意味があります。しかし、暦が処暑を迎えたからといって、身体の中まで一夜で秋になるわけではありません。何週間も暑さの中で暮らしてきた身体には、その名残があります。汗をかき、熱を逃がし、水分を使いながら夏を越してきた身体にとって、八月の終わりは単なる「夏の終わり」ではなく、夏をどう仕舞っていくかという時季でもあります。ここで急いで秋らしい生活へ切り替えるのではなく、まず残っている暑さを上手にさばく。そのうえで、これから来る乾燥へ少しずつ備える。この二つを同時に考えるところに、初秋の養生の面白さがあります。
秋になると、なぜ「肺」を考えるのか
東洋医学の五行では、秋は「金」に属し、五臓では「肺」と結びつきます。ここでいう肺は、現代医学の肺という臓器だけを指しているわけではありません。呼吸をはじめ、鼻や喉、皮膚など、外界と身体との境目に関わる働きまで含めた広い身体観です。そして秋を特徴づける気候が「燥」、すなわち乾燥です。空気が乾けば、まずその影響を受けやすいのが、外の空気と接しているところです。だから昔の人は、秋を迎えると肺を潤すことを大切にしました。まだ湿度の高い日が続く八月末には実感しにくいかもしれません。しかし、秋の養生とは、乾いてから慌てて始めるものではありません。風の中に次の季節を感じたところから、身体も少しずつ次へ向かわせていきます。
梨は、残暑と秋のあいだに立つ果物
梨を切ると、刃のあとからすぐに果汁がにじみます。口に入れれば、しゃりっとした歯ざわりのあとに、たっぷりの水気が広がります。この「水を含んだ果実」という姿そのものが、梨の養生をよく表しています。東洋医学や薬膳では、梨は熱を冷まし、身体を潤し、とくに肺の乾燥を助ける食材として知られてきました。残暑にはまだ身体の中に熱が残る。その一方で、自然は乾燥する秋へ向かっている。熱を冷ましながら潤いを与える梨は、この二つの季節が重なる時期によく似合います。旬とは単に「その食べ物がおいしい時季」というだけではありません。その時季の身体が求めるものと、自然が実らせるものとが、どこかで重なっている。その妙を食卓で味わえることも、食養生の楽しみの一つです。
梨は水分だけではない
梨の大部分は水分ですが、だからといって「水分補給になる果物」というだけで終わらせるのは惜しいところです。日本梨には糖質のほか、カリウムや食物繊維などが含まれています。また、梨特有のしゃりしゃりとした食感には、石細胞と呼ばれる細胞が関係しています。ただし、ここで栄養素を一つずつ取り出して「この成分が○○に効く」と考える必要はありません。梨の良さは、残暑の食欲が落ちやすい時にも口に運びやすく、水分を含み、季節の食卓に自然に取り入れられるところにもあります。薬膳の知恵と現代栄養学は同じものではありませんが、一つの梨を異なる角度から眺めることで、この果物が長く秋の食卓に親しまれてきた理由が少し立体的に見えてきます。
「潤す」からこそ、食べ方には加減がいる
梨はみずみずしく、性質として身体を冷ます方向に働く食材と考えられています。だからこそ、残暑にはありがたい。しかし、よい食材だからといって、誰もが同じ量を食べればよいわけではありません。もともと身体が冷えやすい人、胃腸が冷えると調子を崩しやすい人、軟便になりやすい人などは、一度にたくさん食べたり、冷蔵庫から出したばかりの梨を続けて食べたりすると負担になることがあります。養生に「身体によいものを大量に入れる」という発想は似合いません。梨の瑞々しさを楽しみながら、自分の身体にちょうどよいところで箸を置く。その加減まで含めて食養生です。
梨と白きくらげ――秋の食卓へ一歩進める
梨をそのまま食べるのもよいですが、少し秋が深まったら、白きくらげと合わせて温かいデザートにするのも面白いでしょう。白きくらげも薬膳では潤いを補う食材として用いられます。梨を加熱すると、生の梨とはまた違ったやわらかな甘さが出ます。暑さの残るうちは瑞々しい生の梨を楽しみ、気温が下がってきたら温かい梨へ。同じ食材でも、季節の進みに合わせて調理法を変えていくことができます。旬の食材を「何に効くか」だけで固定してしまうのではなく、季節と身体に合わせて姿を変えながら食べる。そこまでできると、食養生は知識ではなく暮らしになっていきます。
まとめ|梨ひとつにも、季節の境目がある
夏はまだ去らず、秋もまだ来きってはいません。八月の終わりとは、そんな曖昧な季節です。しかし、梨をひと口食べてみると、その曖昧さがむしろよく分かります。ひんやりとした果汁は残る暑さを鎮め、豊かな水気はこれから来る乾燥を思わせます。暦だけを見れば秋でも、身体にはまだ夏がある。だから夏を捨てず、秋を少し迎え入れる。梨は、その二つを一度に食卓へ運んでくれる果物です。季節の変わり目というものは、身構えて迎えるものではないのかもしれません。旬のものをひとつ食べ、風の変化をひとつ感じる。そうして身体は、知らぬ間に次の季節へ渡っていきます。
残暑の梨は、「夏の熱を冷ます」と「秋の乾燥に備えて潤す」の二つをつなぐ果物。夏を終わらせるためではなく、夏から秋へ身体を渡していくためにいただきましょう。
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FAQ
梨は秋の養生に向いていますか?
喉が乾燥するときに梨を食べればよいですか?
冷え性でも梨を食べてよいですか?
梨を加熱すると養生として意味がなくなりますか?
For English Readers
Japanese Pears for Late Summer: Cooling the Lingering Heat and Preparing for Autumn Dryness
Late August in Japan is an unusual season. The calendar has already moved toward autumn, yet the daytime heat can still feel intensely summery. At the same time, subtle signs of the coming season begin to appear in the evening breeze, the changing light, and gradually drier air.
Japanese pears, or nashi, arrive at just this point in the year. Crisp, juicy and refreshing, they have long been valued in East Asian dietary therapy as a food that helps clear excess heat while providing moisture. In traditional East Asian medicine, autumn is associated with the Lung system and with dryness. “Lung” in this context is broader than the anatomical lungs alone and is traditionally connected with respiration, the nose, throat and skin.
This makes the pear particularly interesting as a seasonal food: it belongs neither entirely to the heat of high summer nor entirely to the coolness of autumn. It stands between them.
People who tend to feel cold easily or have sensitive digestion may prefer smaller portions, pears served closer to room temperature, or cooked pear dishes as the weather becomes cooler.
Seasonal eating is not simply about choosing foods because they are said to be “good for” a particular condition. It is about noticing where the season is going and allowing the way we eat to move with it.
A pear at the end of summer is a small taste of the season changing.
【おすすめの漢方薬】
この季節におすすめの漢方薬・漢方レメディ
処暑という節気の中には“暑”という漢字が入っていますが、しかしこれは真夏のような暑さではありません。秋に向かう途中の暑さです。基本的には“秋”を意識する季節になっています。
そこで、肺や喉の潤い、呼吸器系を楽にするような漢方薬が合ってくることが多くなります。また、肺と心臓は肺循環という形で一つの循環器系を形作っておりますので、心臓などにも効果がある漢方薬が適応することも多くなります。
鍼灸のツボもそうですが、漢方薬は人それぞの体質や症状に合わせて処方されるものですので、気になる方はお気軽にご相談ください。
※ インスタグラムやX、noteなどを見ていますと、「〇〇のときは〇〇湯」などと一覧で明示しているものがございますが、これらはあくまで参考程度にしておくとよいでしょう。自己判断はかえって治療の時期を逸してしまうことがありますので、しかるべきところでご相談してみてください。
漢方薬は、個々の体質に合わせた処方が大事になります。
当院をはじめ、漢方薬に詳しい漢方薬重視の薬局・薬店・ドラッグストアでのご相談をお勧めいたします。また、漢方薬は、変化する体質や時期によって変えていくこともありますので、定期的な受診をお勧めいたします。
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源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。





