『養生訓』を読む 第20回|日々歩くことが養生になる
今回の『養生訓』は・・・
健康のために何か特別なことをしなければならない。そう考えると、養生は少し難しいものに感じられるかもしれません。けれども貝原益軒は、『養生訓』の中で、もっと身近で続けやすい方法を示しています。
それは、日々少しずつ身体を動かすことです。
とくに食後に静かに歩くこと。雨の日であれば、家の中をゆっくり歩くこと。こうした小さな習慣が、飲食の滞りを防ぎ、気血の巡りを助け、病を遠ざける養生になると説いています。
この章は、養生が決して特別な修行ではなく、毎日の暮らしの中にあることを教えてくれます。
この回の『養生訓』の要点
原文(巻之一・総論上・17章)
身体は日々少づつ労動すべし。久しく安坐すべからず。毎日飯後に、必ず庭圃の内数百足しづかに歩行すべし。雨中には室屋の内を、幾度も徐行すべし。此如く日々朝晩(ちょうばん)運動すれば、針・灸を用ひずして、飲食・気血の滞なくして病なし。針灸をして熱痛甚しき身の苦しみをこらえんより、かくの如くせば痛なくして安楽なるべし。
現代語訳
身体は、毎日少しずつ動かして働かせるべきです。長い時間、じっと座り続けてはいけません。
毎日、食後には必ず、庭や畑の中を数百歩ほど静かに歩くのがよいでしょう。雨の日には、家の中を何度もゆっくり歩くとよいでしょう。
このように毎日、朝晩に身体を動かしていれば、鍼や灸を用いなくても、飲食や気血が滞らず、病気になりにくくなります。
鍼や灸による熱さや痛みに耐えて身体を苦しめるよりも、このように日々歩くことを習慣にすれば、痛みもなく、安らかに養生することができるのです。
養生は、日々の小さな歩みから始まる
この章で益軒がすすめているのは、激しい運動ではありません。内容からすると、いわゆる競技やスポーツでもなさそうです。
益軒の定義では、「少しずつ」「静かに」「ゆっくり」といった言葉が重要ではないでしょうか。
身体を動かすといっても、限界まで鍛えることではなく、日々の暮らしの中で滞らないようにすることが大切なのです。
とくに注目したいのは、食後の歩行です。
食事のあとに長く座ったままでいると、飲食が滞りやすくなります。そこで益軒は、庭や畑の中を数百歩ほど静かに歩くことをすすめています。これは、現代でいう軽い食後散歩に近いものです。大げさな運動ではなく、身体を少し動かして、消化と巡りを助ける。ここに養生の知恵があります。
長時間座らないという教え
益軒は「久しく安坐すべからず」と言います。
長く座り続けることは、身体の巡りを妨げます。
これは、東洋医学でいえば、気血が滞りやすくなる状態です。
現代の生活では、デスクワーク、スマートフォン、車移動などによって、座る時間がとても長くなっています。だからこそ、この言葉は今の私たちにもそのまま響きます。
長く座ったら、少し立つ。少し歩く。身体をゆっくり伸ばす。
それだけでも、滞りを防ぐ一歩になります。
雨の日でも、養生はできる
この章のやさしいところは、雨の日のことまで書かれている点です。
雨で外に出られないなら、室内を何度もゆっくり歩けばよい。つまり、養生は天候や環境のせいにせず、できる形で続ければよいということです。
完璧な運動でなくてよい。立派な道具も必要ない。外に出られない日も、家の中で少し歩く。
この柔らかさが、『養生訓』の実践的な魅力なのです。
現代への活かし方
この章を現代の生活に活かすなら、まずは「食後に少し歩く」ことから始めるのがよいでしょう。
たとえば、食後にすぐ座り込むのではなく、家の中を少し片づける。ベランダに出る。近所を数分歩く。雨の日なら室内をゆっくり歩く。
大切なのは、頑張りすぎることではありません。
強い運動で疲れ切るのではなく、身体の中の流れを止めないこと。飲食を滞らせず、気血をゆるやかに巡らせること。そのための小さな歩行が、日々の養生になります。
源保堂鍼灸院の見解
鍼灸は、身体の滞りを整え、巡りを助ける大切な方法です。しかし、日々の生活の中でまったく身体を動かさず、滞りを作り続けていれば、施術だけで整え続けることは難しくなります。
益軒がこの章で言っているのは、鍼灸を否定することではありません。
むしろ、鍼灸が必要になる前に、日々の暮らしの中で身体を養うことの大切さを説いています。
食後に少し歩く。長く座りすぎない。雨の日でも室内をゆっくり歩く。
こうした小さな習慣が、身体の巡りを保ち、施術の効果を支える土台にもなります。
源保堂鍼灸院では、施術だけでなく、日常の養生をともに考えることを大切にしています。病を攻める前に、まず日々の身体を動かし、巡らせ、整えていくこと。それが、東洋医学の養生の基本です。
まとめ
この章で益軒が伝えているのは、身体を毎日少しずつ動かすことの大切さです。
長く座り続けず、食後には静かに歩く。雨の日には室内をゆっくり歩く。そうした小さな習慣が、飲食や気血の滞りを防ぎ、病を遠ざける養生になります。
養生は、痛みをこらえて行うものではありません。日々の中で、安らかに、少しずつ身体を動かすこと。その積み重ねが、健康を支える大きな力になります。
痛みをこらえる前に、静かに歩く。
養生は、日々の一歩から始まる。
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定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
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源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
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