『謝謝、北京!ー北京研修日誌(6)』心内科へ
心内科へ
心内科の研修担当は、趙鵬先生です。
今回はあまり写真を撮れませんでしたので、いきなりの集合写真で失礼いたします。
先生は九州大学に留学経験があり、日本語も堪能。
とても穏やかで、理知的であります。
九州大学では、心理学を学んでいたということで、趙鵬先生の専門は中医心療内科。
午後の研修が始まって、先生にお目にかかったら、まず真っ先に、
「みなさん、何をしたいかというご希望はありますか?ご希望があればそのようにしますから、何でもご希望を話して下さい。」
と言われました。
まさかの先生の発言に私たちは意表を突かれました。
私としましては、研修初日からとても良い刺激を受けていたので、ただその場にいて空気を吸っているだけでも、“何か”を感じ取って、その“何か”を吸収できている。“それで十分”という気持ちが強くもあり、こちらから何かを要求するという意識がありませんでしたし、“何でもいいですよ”といわれると、反って“何にも出ません”状態になることを思い知らされました。
心内科での臨床研修
結局私たちは目新しい要求をすることもなく、これまでと同様に、ベッドサイドで患者さんに触れる、そしてその症例を聞く、そんなところに落ち着きました。
でも・・・
先生が主導して症例を聞くと言うよりは・・・
“自分たちで弁証をしましょう!!”というもの。
入院されている患者さんのところに行き、なんと、一から問診をしていくという課題をすることになりました!
ふだん鍼灸の鍼療で問診はしておりますので、それは、馴れてはいます・・・。
でも、でも、でも、ですよ・・・。
ここは自分のホームではありません、アウェイですよ。
しかも、ここは中国です。
泣く子も黙る北京中医薬大学付属の東直門医院ですよ!
いうても私は日出づる国の倭国からやってきた、中国から見たら辺境にいる田舎鍼灸師ですよ!
緊張ですよね、武者震い。
ということで・・・
問診のトップバッターは私だったのです。
で、いきなり何を聞いたかというと・・・
「では、まずはじめに、えー、お名前は?」
すると趙先生が、「名前なんてどうでもいいでしょ!何聞いているの!」って・・・。
いや、もちろん趙先生は知的なスマイル。
でも、内心は怒ってるでしょ・・・。
いいんだ、旅の恥はかきすて、いや、旅じゃない研修だ・・・。
いいんだ、恥をかいた方が勉強になる、その連続だ、まだまだ伸びしろ日本一!
いや、私の意図としては、フレンドリーにですね、お互いの名前を紹介し合ってほぐれてからスムースに問診へ、という流れでそこ大事!と思ったのですけど、そこは要らなかったようです、はい。
ということで、仕切り直し、いつもやってることじゃないか、オレ!
田舎鍼灸師じゃないさ、心の中で深呼吸、オレ!
ということで、無難なところから、年齢、つらい症状、既往歴、家族との関係など。
そして順番に他のメンバーも次々と問診をして、患者さんの背景をメモしていきます。
趙先生がそばにいて、私たちの質問に耳を傾けてくれているわけですが、時折、「いい質問ですね、グッド、グッドクエッション!」といわれるのです。それが出るとちょっと嬉しい、そして一安心。
そして趙先生は、「私の専門である中医心療内科の分野からみた質問もして下さいね」とも。
ということで、「生活の中でストレスに感じることはありますか?(ちょっとストレートすぎるか?と思いつつ)」と問診をしましたら、
「この病気のこと!病気のことを考えると憂鬱になる!それだけ!夫も優しいし、家は印刷工場をしていてお金はあるし、もう病気だけ!」と患者さんは訴えました。
そして患者さんは続けて、
「でも、この病院に来て、こちらの趙先生に出逢ったからもう心配はないの!ほんとうに良い先生よ!この先生は名人!!体調もよくなっているしね!」と、趙先生に心からの信頼を寄せています。
趙先生は謙遜して、「いやいや、まぁ、それは、いいですよ、そこまで言わなくても・・・。謝謝、謝謝」とはにかみながらやさしい笑顔を湛えておりました。
趙先生と患者さんのこのやり取りをみて、こういう信頼感のある交流こそ医療の現場では必要だなと痛感いたしました。
果たして自分はそれが出来ているかな・・・?
趙先生の指示を仰ぎながら、一行は何とか問診をし、脈診や舌診をし、30分くらいは経ったでしょうか。
私たちは病室を後にして症例検討を聴きに空いている職員室へ。
趙先生は、「先ほどの患者さんは、最初の頃よりも大部よい方向にいっている。とはいえ、まだまだかなり数値は悪いです。まだしばらくは治療が必要です。」と少しだけ暗い表情になってお話しされました。
患者さんは趙先生を信頼し、「もう病気の心配をしなくても良いわ!」とお話ししてくれましたが、これは趙先生が患者さんの症状に耳を傾ける、その真摯な姿勢によって不安がやわらいでいるのも大きな改善要素だろうと思います。そういった不安を解消してあげることが、趙先生の専門である中医心療内科のひとつの技術なのでしょう。
日々の鍼灸臨床でも同じことが言えます。
患者さんの心をやわらげる、気持ちを明るくする、これはとても大切なことです。
私は常々思います。
鍼灸は、日常生活を楽しく明るくするもの。
人生を楽しく過ごす、それが鍼灸なんだと。
臨床家の詰め所にて
このあと、もう一人の患者さんを臨床研修した後に、趙先生とその教え子の先生と交流する時間となりました。
その交流の場所になったのは、中医師が症例などをパソコンに打ちこんだりするところ。
比較的広い部屋に人が集まり、数人で症例を検討していました。
若い医師たちの熱気がたまらない、情熱の力。
趙先生のお弟子さんからも、「どうして中医学に興味を持ったんですか?」という質問がありました。
お弟子さんからは、中医学の背景には中国の文化・哲学があるので、そこにも目を向けて欲しいというアドバイスをいただきました。
そして私たちチーム内のメンバーが、お弟子さんに、「中医学の学術を深めるためには、どんな本を読んだらいいですか?」と質問しますと、お弟子さんは、
即座に・・・
「テキスト・・・」
と、少し笑みを浮かべてひと言。
そうなんですよね、私もいろいろとかなりの資料は持っていますけど、最終的には一番まとまっているテキストが基本になりますよね。
そこを尋ねれば、たいていのことは書いてあるんですよね。
“灯台もと暗し”といいますか、本場の中医師にとっても“テキストが重要なんだと、改めて感じた次第です。
私は、この研修に参加する前は、中医学は比較的新しい学問かなと思っていました。
近代に入って、古医書の話をまとめ直した新しい学問体系かと思っていたのです。
しかし、そうではないんだと言うことに気がつきました。
北京中医薬大学草創期の先生方が、古医書の森を探険し、必要なものを体系化したもの。
これは、まさに温故知新の学問だったわけですね。
きれいに四文字熟語にまとめすぎているという感じがしないでもないですが、そこに流れてくる源流は同じであります。
だからこそ、重要なのは“テキスト”ということになるんですね。
台湾からの留学生の中医師との交流も
私たちの話をやや遠くの方から眺めている女性の先生がおりました。
ちょっとけだるそうな、そして私たちの方をちらちら見ながら何か言いたげな・・・。
趙先生に、「日本ではどのような場面で漢方薬を使われますか?」という質問を受けたときに、「最近は不妊症に使われることが多くなっていると思います」と答えたところ、趙先生が、私たちを見ていた女性の先生に声をかけて、「あの先生は台湾から留学している中医師なんだけど、婦人科が専門なので、不妊症にどのように使われるかちょっと聞いてみましょうか。」となりました。
そこで女性の先生は、待ってましたとばかりに私たちの方へいらして下さいまして、不妊症を診るときのお話をしてくれました。
台湾では4つの周期に分けて不妊症の患者さんを診ると言うことで、図に書いて説明もしてくれました。
その4つの周期の元になっているのは、陰陽マークから発想されたものです。
これはとても参考になりますね。
鍼灸の臨床にも使えるお話しです。
陰陽マークも、このような病機の理解にも使えるのだと、その応用の仕方は勉強になります。
中医心療内科のお話しも
そして、趙先生の専門であります中医心療内科のお話しもありました。
本日教わったのは、中医心療内科の「剛柔弁証」と呼ばれるもの。
上図のように、まず性格を剛柔に分けます。
そしてさらに剛柔それぞれを実と虚に分けます。
そしてそれに合せた漢方薬を処方します。
はじめて聞く弁証方法ですが、『三国志』に出てくる張飛のお話や、『西遊記』に出てくるお馴染み孫悟空、猪八戒、三蔵法師などのキャラクターで解説していただきました。とても分かりやすい弁証方法ですね。
趙先生はもともとこちらの中医心療内科が専門だというのを前もって聞いていたので、こちらがメインでおはなしを聞けるのかな?と思っていたところ、研修の多くは心内科でした。
そんなこともあって、最初に「どんな研修をしたいですか?」と尋ねられて戸惑いを隠せなかったのは、心内科は心臓循環器科なのか、心療内科なのか、どっち?どっちも?という整理が付いていなかったというのは大きかった・・・。
東洋医学では、「心は血脈を主る」ということから、心臓循環器科は心臓を扱う科ででいい。
これはイメージしやすいですよね、日本も同じですから。
しかしその一方で、「心は神を蔵す」ということでいえば、心療内科もまた心臓を扱う科はでもいい。
どっち?
どっちも?
そのあたりが、全体を見つめる中医学であって、並行しているというところがこれまたおもしろいところなのであります。
で・・・
その区分はこの際どっちでも良いとして・・・
いずれにせよ、趙先生は、とっても偉いんです。
かっこいいんです。
心内科でもまた、中医学の多角的な側面を研修させていただきました。
いやはや、もう、ほんとにすごい世界があるものです。
辺境の田舎鍼灸師も、これを刺激にもっともっとがんばっていくことを誓うのでありました。
矜持では負けないぞ!
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