『養生訓』を読む 第18回|『養生訓』を読む|薬や鍼灸よりも、まず養生
今回の『養生訓』は・・・
鍼灸院のブログで、あえてこの言葉を紹介するのは少し勇気がいるかもしれません。
貝原益軒は『養生訓』の中で、薬や鍼灸を「やむを得ない時の下策」と表現しています。
しかしこれは、薬や鍼灸を否定しているのではありません。益軒が言いたいのは、病気になってから治すよりも、病気にならないように日々を整えることの方が大切であるということです。
治療は大切です。けれども、その前に生活を整えること。
この章には、養生の本質がとてもはっきりと示されています。
この回の『養生訓』の要点
原文(巻之一・総論上・15章)
凡(およそ)薬と鍼灸を用るは、やむ事を得ざる下策なり。飲食・色慾を慎しみ、起臥を時にして(:規則正しく)、養生をよくすれば病なし。腹中の痞満(ひまん:腹がつかえてはること)して食気つかゆる人も、朝夕歩行し身を労動して、久坐・久臥を禁ぜば、薬と針灸とを用ひずして、痞塞(ひさい:腹がつかえて通じがないこと)のうれひなかるべし。是上策とす。薬は皆気の偏なり。参ぎ(じんぎ:朝鮮人参と黄耆)・朮甘(じゅつかん)の上薬といへども、其病に応ぜざれば害あり。況(いわんや)中・下の薬は元気を損じ他病を生ず。鍼は瀉ありて補なし。病に応ぜざれば元気をへらす。灸もその病に応ぜざるに妄に灸すれば、元気をへらし気を上す。薬と針灸と、損益ある事かくのごとし。やむ事を得ざるに非ずんば、鍼・灸・薬を用ゆべからず。只、保生の術を頼むべし。
現代語訳
そもそも薬や鍼灸を用いることは、やむを得ない場合の次善の策です。
飲食や色欲を慎み、寝起きを規則正しくし、日ごろから養生をよく心がけていれば、病気になることは少なくなります。
お腹が張ってつかえ、食欲が落ちている人でも、朝夕に歩き、身体を動かし、長く座り続けたり、長く寝続けたりすることを避ければ、薬や鍼灸を用いなくても、お腹のつかえや滞りに悩まされずにすむでしょう。これこそが上策です。
薬というものは、どれも気の性質に偏りがあります。薬用人参や白朮、甘草といった優れた薬であっても、その病に合わなければ害になります。まして中品・下品の薬であれば、元気を損ない、別の病を生じることもあります。
鍼も、病に合わなければ元気を減らします。灸もまた、その病に合わないのにむやみに行えば、元気を減らし、気を上らせてしまいます。
薬や鍼灸には、このように益もあれば損もあります。だから、やむを得ない場合でなければ、薬・鍼・灸に頼るべきではありません。
ただ、日々の命を保つ養生の術を頼みにするべきなのです。
治療より先に、生活を整えておくこと
この章を読むと、少し驚く方もいるかもしれません。
益軒は、薬や鍼灸を「下策」と呼んでいます。しかし、ここで大切なのは、薬や鍼灸そのものを否定しているわけではないということです。
益軒が戒めているのは、生活を整えないまま、治療だけに頼る姿勢です。
どれほど良い薬であっても、身体に合わなければ害になります。どれほど良い鍼灸であっても、状態に合わなければかえって身体を損なうことがあります。
だからこそ益軒は、病気になってから慌てて治療を求めるのではなく、日ごろから飲食を慎み、起きる時間・寝る時間を整え、身体をほどよく動かすことを重視しました。
つまり、この章の主題は、
治療を否定することではなく、養生を第一に置くこと
にあります。
生活の基盤を見直そう
とえば胃腸の不調、肩こり、疲労感、眠りの浅さなどは、日々の生活の積み重ねと深く関わっています。
もちろん、必要な治療は受けるべきです。
しかし同時に、
- 食べすぎていないか
- 寝る時間が乱れていないか
- 長く座りすぎていないか
- 身体を動かす時間があるか
- 疲れを放置していないか
こうした生活の土台を見直すことが、とても大切です。
益軒がいう「保生の術」とは、特別な秘法ではありません。
毎日の暮らしの中で、命を保つ方向へ少しずつ整えていくことです。
源保堂鍼灸院の見解|治療よりも生活の質
鍼灸院である私たちにとって、この章はとても大切な意味を持っています。
鍼灸は、身体の巡りを整え、回復する力を助ける有効な方法です。けれども、鍼灸だけですべてが解決するわけではありません。
食事、睡眠、運動、心の持ち方。
これらが乱れたままでは、せっかく整えた身体もまた崩れてしまいます。
源保堂鍼灸院では、施術と同じくらい、日々の養生を大切に考えています。
鍼灸は「治すための手段」であると同時に、養生を支えるものでもあります。
そして本当の健康は、施術室の中だけで作られるものではなく、日々の暮らしの中で育てていくものだと考えています。
むしろ、鍼灸の効果を十分に活かすためにも、日々の養生が必要です。
まとめ
この章で益軒が伝えているのは、病気になってから治すことよりも、病気にならないように日々を整えることの大切さです。
薬や鍼灸は必要な時には大切な助けになります。
けれども、それだけに頼るのではなく、まずは暮らしの根本を整えること。
身体をよく動かし、心気を定め、欲を節度にとどめ、外邪を防ぐ。
そうした日々の積み重ねこそが、養生の上策なのです。
病を攻めるより、病が起こらない暮らしを育てることがポイントです。
この章で益軒が伝えているのは、薬や鍼灸を否定することではありません。
むしろ、必要な治療の価値を認めたうえで、それ以上に日々の養生を大切にせよ、と説いています。病気になってから治すのではなく、病気になりにくい暮らしを作ること。
それが「保生の術」であり、養生の本質です。
治療に頼る前に、暮らしを整える。
それが養生の上策である。
FAQ よくある質問と答え
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参考図書
定本として『養生訓・和俗童子訓』(岩波文庫)を使用
『養生訓』に関連する本

源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
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