五臓六腑とは?|解剖学の臓器と違う東洋医学の「臓腑」の考え方
この記事の要点
初出:続・鍼たま(2006年3月1日)/2026年10月 改訂
五臓六腑とはなんだろう?
「ビールが五臓六腑に染みわたるね」。
そんな言葉を私たちは日常でも、気軽に使います。
ところが「五臓六腑」が、もともと東洋医学の専門用語であることを知っている人は少数派ではないだろうか。
そしてさらに、鍼灸の世界においては、今でもこの言葉の捉え方をめぐって立場が分かれています。
今回は、五臓六腑とは何か、なぜ立場が分かれたのかをまとめます。
五臓六腑とは何か
五臓六腑を具体的に挙げると、次のような配分になります。
- 五臓: 肝・心・脾・肺・腎
- 六腑: 胆・胃・大腸・小腸・膀胱・三焦
『素問』五臓別論では、五臓は精気を蔵して漏らさず、六腑は飲食物を受けて下へ下へと伝え変化させて蔵さないと区別します。
つまり単純にまとめますと、
- 五臓は貯える臓
- 六腑は通す腑
ということになります。
五臓六腑は「臓器」ではなく「はたらきの体系」
さらに五臓六腑は、五つに(これを五行と言います)に分けられ、季節・色・感情などが配当されます。
- 肝: 木・春・青・怒
- 心: 火・夏・赤・喜
- 脾: 土・長夏・黄・思
- 肺: 金・秋・白・悲(憂)
- 腎: 水・冬・黒・恐
こうして五臓六腑は、東洋医学における生理学として、それぞれのはたらきに整理されていきました。
ちなみに、六腑に「三焦」というものが含まれますが、これは形のある臓器が対応しません。三焦は「名ありて形なし」と称されますが、この腑は、臓腑が臓器の名前ではなく、はたらきの名前であることをよく示していると思います。
鍼灸の世界にある三つの立場
鍼灸にはいろいろな流派があります。五臓六腑の考え方を肯定する立場もあれば、古いものとして退ける立場もあり、その中間を行く折衷の立場もあります。
どの流派も鍼灸の施術として成り立っているわけですから、どれも効果があるわけでして、どれが正しい、間違っているという話ではありません。これは、各先生の考え方の違いになります。
しかし、受ける側から見れば、その鍼灸院がどの立場なのかはわかりません。混乱するのも無理はないでしょう。
気になる方は、初診のときに「どんな考え方で診ますか」と聞いてみてください。
否定・軽視の歴史|山脇東洋と吉益東洞
この混乱の源は、日本では江戸時代にさかのぼります。
山脇東洋(1705〜1762)は、宝暦4年(1754年)に京都で官許を得て解剖を行い、その観察を『蔵志』(1759年)にまとめました。日本で初めて公に行われた解剖として知られています。
同じ時代の古方派・吉益東洞(1702〜1773)も、陰陽五行説や臓腑の理論を退け、目の前の症状に薬を当てることを重んじました。
こうした流れのもとで、杉田玄白・前野良沢・中川淳庵らによる『解体新書』(1774年)が出版されました。
オランダ語の解剖書の翻訳です。これが拍車をかけ、五臓六腑論は否定されたり、軽視されたりする流れが強まりました。
そして明治維新では国の医学として西洋医学(主にドイツ医学)が採用され、東洋医学は排斥されました。
その傾向がそのまま今につながり、現代医学が高度に発展した今、五臓六腑論は東洋医学だけのフィクションと見なされがちです。
否定はなぜ起きたのか|臓器と「はたらき」のすれ違い
では、否定派はなぜ五臓六腑論を否定したのでしょうか。
始まりは、五臓六腑論に出てくる各臓器を、現代解剖学の臓器単位で割り振ったことでした。
たとえば、五臓六腑論の「肝」は、肝臓そのものを含みます。しかし、それを中心にしながらも、肝臓が表すはたらきを広く捉えたものです。解剖学の肝臓そのものを指しているのではありません。
東洋医学の肝は、広い意味での肝臓を指します。ですから、解剖学の肝臓と食い違いが出てくるのは、当然なのです。
古医書の人々も解剖を知っていた
東洋医学の側にも、実は解剖の記録があります。
- 『黄帝内経・霊枢』には、人が死んだとき、解剖して見ることができる、という趣旨の記述があります(経水篇)
- 『霊枢』には、消化管の長さを測った記録もあります
- 『漢書』王莽伝には、処刑された人の身体を解剖し、臓腑の大きさや血脈を調べた記録があります
古医書の世界の人々も、解剖をしていなかったわけではありません。目で確かめながらも、それを臓器単位で捉えようとしなかっただけなのです。ただし、当時の観察が現代解剖学ほど精密だったわけではありません。中国でも後世、王清任が『医林改錯』で古書の臓腑図の誤りを正しています。
源保堂鍼灸院の見解|臓腑を「はたらき」として読む
解剖学的な臓器単位と五臓六腑論を短絡的につなげてしまったこと。それが、否定・軽視の始まりだったのではないでしょうか。
私たちは古医書を頼りに、臓腑を「はたらきの体系」として用います。同時に、現代医学の知見も参考にします。臓器の話と、はたらきの話を、混同せずに使い分けること。それが、五臓六腑論を現代に生かす道だと考えています。
まとめ
五臓六腑は、臓器の名前ではなく、はたらきの名前です。
そこを押さえると、肯定と否定のすれ違いも見えてきます。東洋医学の言葉に出会ったときは、解剖学の臓器と見比べるのではなく、どんなはたらきを指しているのか、という目で読んでみてください。
FAQ よくある質問と答え
What Are the Five Zang and Six Fu? East Asian Medicine’s View of the Organs
The “five zang and six fu” (五臓六腑) are the core organ system of East Asian medicine: liver, heart, spleen, lung and kidney, plus gallbladder, stomach, large and small intestines, bladder and the “triple burner.” They are not anatomical organs but a framework of functions, which is why the “liver” of East Asian medicine does not match the liver of modern anatomy. In 18th-century Japan, scholars such as Yamawaki Toyo, who conducted an official dissection in 1754 and published his findings in 1759, and Yoshimasu Todo questioned the theory, and Kaitai Shinsho (1774) strengthened the trend. But classical medical texts also record dissections, and their authors chose to describe function rather than organ units.
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源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。





