津液
この記事の要点
初出:続・鍼たま(2006年7月21日)/2026年10月25日 改訂
私たちの体は水分でできている
私たちの体は、体重の約60%が水分でできています。これは成人の目安で、年齢や体格によって差があり、「約3分の2」と言われることもあります。この水分は、体のさまざまな場所で、それぞれに合ったはたらきをしています。今回は、東洋医学が、この体の水分をどう捉えてきたかをお話しします。
体の中の水分のはたらき
たとえば、食べ物を食べたとき、まず口の中で噛みますが、唾液という水分がなければ、食べ物はぼそぼそのままで、うまく消化されません。
涙という水分がなければ、目は乾燥して、まぶたを開け閉めすることもできなくなります。
このほかにも、血液や関節液など、さまざまなところで、水分はそれぞれの部位に合った形で活躍しています。
これって当たり前のようですが、不思議ですよね。
体の至る所、まんべんなく水が活躍しているなんて。
ふだんは意識することがありませんが、水分はあらゆる部位で、静かに、そして休みなく、私たちの体を支えています。
水分のバランスが崩れると
これほど大切な体の水分ですが、体がバランスを崩して病になると、水分の失調が起こり、いろいろな症状が現れることがあります。など、水分に関わる症状は、日常的にもよく見られます。
- むくみ
- 口の渇き
- 重だるさ
- 痰の多さ
- 化膿
現代医学にも、体液や電解質の管理があり、脱水やむくみは治療の対象です。それでも、臨床では、検査値に大きな異常がないのに、むくみ、口の渇き、乾燥、冷えが続く方が少なくありません。こうした状態は、現代医学では病気として扱われにくく、対症的な対応にとどまることもあります。東洋医学は、水を量だけでなく「質とはたらき」として捉え、全身の機能のなかで動かすものと考えます。この見方が、そうした方を診るときの手がかりになります。
東洋医学の「津液」という考え方
東洋医学には、体の水分を扱う概念として「津液(しんえき)」があります。
「津」は表層部の水分、「液」は深層部の水分と捉えます。津はさらさらとして皮膚や筋肉の表面を潤し、液はとろりとして関節や骨、脳などの内部を潤す、というイメージです。
この「津」と「液」は、ばらばらに存在しているのではなく、互いに移り変わりながら、全身をめぐっています。
だからこそ、東洋医学では、体の水分を一つのまとまりとして診ることができるのです。
津液を動かす力|三焦
津液を駆動する動力として、東洋医学では「三焦」というはたらきを想定します。ここで「想定」と書いたのは、三焦が、古典にも「名のみありて形なし」と記されているように、臓器としての形を持たず、はたらきとして存在するものだからです。現代の解剖学から見れば、あくまで「想定」の域を出ません。
では、解剖学で形が捉えられないから、荒唐無稽なものとして無視できるのかというと、そうではありません。三焦は、東洋医学の中でしっかり把握でき、診察・治療に欠かすことのできないものです。三焦については、機会を改めて、くわしくお話しします。
「こり」は津液の停滞
では、津液の考え方は、日常の症状にどう生かされるのでしょうか。
例として、「こり」を挙げます。
こりは、筋肉の過剰な緊張として捉えられることが多いと思います。実際に緊張はしていますよね。
しかし、東洋医学では「津液の停滞」と捉えます。
体の中の水分の代謝が悪くなり、一定のところに溜まってしまっている状態が、こりです。この発想なくして、こりの治療はできません。
こりを揉むだけでは、なぜ治りにくいか
近ごろは、クイックマッサージのように、こりのある部分をひたすら揉むものが増えました。緊張している筋肉を、揉んでほぐすという発想です。
しかし、当院では、こりの原因は津液の停滞だと考えます。
ですから、いくら患部の筋肉を揉んでも、根本的には変わりにくいと考えています。むしろ、そんなに揉んでしまったら筋肉を傷めて、津液の停滞をさらに増すことにもなりかねません。
同じ理由で、鍼を、こりのある患部に刺しても、それは無用だと考えます。
滞りの原因は、患部にはありません。全く別のところにあるからです。
つまり、こりの場合は、当院の鍼は、津液の流れ全体を整えることを考えます。
今日からの養生
津液のめぐりを整える養生は、特別なことではありません。
- 冷たい飲み物を一度にたくさん飲まず、常温か温かいものを少しずつ飲む
- 長く同じ姿勢を続けず、ときどき体を動かして、めぐりを促す
- 食事は、よく噛んで、腹八分目を心がける
- 湯船にゆっくりつかり、体を温める
以上のようなことを心がけてみてください。
まとめ
東洋医学の体を見つめる視点は、長い間の人体の観察から来たものです。「こり」という、日常にありふれた症状も、津液という側面から見ると、まったく違う姿が見えてきます。体の水分に目を向けることは、東洋医学の人間観を理解する、入り口になります。
FAQ よくある質問と答え
What Is “Shen” in East Asian Medicine? Reading a Line from the Su Wen
About 60 percent of an adult’s body weight is water, and that water works differently in different places. Saliva allows us to digest food, tears keep the eyes moist enough to open and close, and blood and joint fluid each perform their own tasks. We rarely notice this water, yet it supports the body silently and constantly.
East Asian medicine has a concept for this: 津液 (jin-ye, “body fluids”). Jin (津) refers to the lighter, surface fluids, and ye(液) to the deeper, thicker ones. The two are not separate, but change into one another as they circulate through the body. Modern medicine also manages fluid and electrolyte balance carefully, and treats dehydration and edema. In practice, however, many people are left with swelling, thirst, dryness or a sense of cold even though their test results show no clear abnormality. Such conditions are often not treated as diseases in modern medicine, and care may stay symptomatic. East Asian medicine regards water not only as a quantity but as a matter of quality and function, something that is moved within the working of the whole body. That view gives us a place to start when we see these patients.
What moves these fluids? East Asian medicine posits the sanjiao (三焦, “triple burner”). The classics describe it as having “a name but no form,” meaning it is not an organ but a function. From the standpoint of modern anatomy, it remains a hypothesis. Yet it is not something we can dismiss, because it is essential in diagnosis and treatment.
This view changes how we see everyday symptoms. Stiffness, or kori, is usually seen as excessive muscle tension. In East Asian medicine, it is seen as a stagnation of body fluids: metabolism of water slows and fluid collects in one place. At Genhodo Acupuncture Clinic, we therefore believe that kneading the stiff muscle alone, as quick massage does, rarely changes the root cause, and may even damage the muscle. Our needling aims at the flow of fluids as a whole, rather than at the stiff spot itself. If you have severe or persistent stiffness, numbness or swelling, please also consult a medical doctor.
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源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。







