【日々の食卓養生学】鍋焼きうどんの食卓養生学|冬の温もり・小麦と葱の東洋医学・讃岐の食文化

この記事の要点
初出:続・鍼たま(2006年1月23日)/2026年11月5日 改訂
冬の食卓に、湯気を立てる鍋焼きうどんがのると、それだけで、体も心もゆるみます。この記事は、2006年1月に、四国出張のおりに食べた一杯の記憶から、鍋焼きうどんを、東洋医学の食養生の目で改訂したものです。
鍋焼きうどんの食卓養生学|冬の温もりと、一鍋の知恵
私は、源保堂鍼灸院で、毎日の食卓を、養生の場として大切にしています。特別な薬膳料理ではなく、ふだんの食事のなかにこそ、体を整える知恵が詰まっていると考えるからです。この、毎日の食卓を、東洋医学の視点で見つめる試みを、「食卓養生学」と呼んで、お話ししています。今回の主役は、冬の定番、鍋焼きうどんです。
讃岐の出張と、冬限定の鍋焼き
あれは、2006年1月のことでした。毎月、四国へ出張していた私は、その回は、あまり時間に余裕がありませんでした。それでも、お昼は、しっかり讃岐うどんをいただきます。この日は、香川県東かがわ市の白鳥にある、うどん店で、鍋焼きうどんを食べました。
その店には、鍋焼きうどんのほかに、キムチ鍋、肉卵とじうどんなど、鍋物系のうどんが、いくつかありましたが、いずれも冬の限定でした。月に一度だけ訪れる者としては、この「季節限定」という言葉に、心をくすぐられます。ざるで食べる讃岐うどんもおいしいですが、鍋にしても、また格別です。
店によって違いはありますが、そこの鍋焼きうどんの出汁は、少し甘めでした。以前、別の店で食べたときも、少し甘かったので、地元の方に聞いたところ、鍋焼きは、甘い味のものが多い、という話でした。具は、シンプルでした。熱々の鍋焼きで、体が温まり、午後の仕事にも、弾みがつきました。
この、ただの「昼ごはんの話」のなかに、実は、食養生の要素が、いくつも隠れています。以下で、一つずつ見ていきましょう。
鍋焼きうどんの栄養|一鍋でそろう、主食とたんぱく質と野菜
鍋焼きうどんは、一つの鍋で、栄養のバランスがとりやすい料理です。
- うどん(小麦): 炭水化物が主で、エネルギー源になります。消化がよく、体調がすぐれないときにも食べやすい主食です。
- 卵・鶏肉・えび天: たんぱく質の供給源です。筋肉や、体の組織の材料になります。
- 白ねぎ・青ねぎ: 香り成分の硫化アリルを含みます。青い部分には、β-カロテンなども含まれます。
- しいたけ: 食物繊維が豊富で、うま味成分も出汁に溶け出します。
ただし、つゆの塩分は、一杯で、かなりの量になることがあります。高血圧の方などは、汁を全部飲み干さないなど、工夫をしてください。
東洋医学から見た鍋焼きうどん|脾胃を養い、寒さをはらう
東洋医学では、食べ物を、体を温めるか冷やすか(性質)、どんな作用があるか(味)によって、整理します。鍋焼きうどんの具材を、この目で見てみましょう。
- 小麦: 甘味で、心を養い、気持ちを落ち着かせる食材とされます。古い処方の「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」にも、小麦が使われます。なお、小麦の性質の記述は、文献によって幅があるため、ここでは、「甘味で、心と脾胃を養うもの」と捉えておきます。
- 白ねぎ(白い部分): 辛くて温かく、体の表面の寒気をはらう作用があります。昔から、風邪のひき始めに、ねぎを使う習慣がありました。
- 卵: 甘味で、穏やかな性質を持ち、血や陰を養うとされます。
- 鶏肉: 甘味で、温かい性質を持ち、脾胃を温めて、気を補うとされます。
- えび: 甘味で、温かい性質を持ち、腎を温め、補うとされます。
- しいたけ: 甘味で、穏やかな性質を持ち、気を補い、食欲を助けるとされます。
寒い冬に、背筋がゾクッとしたとき、鍋焼きうどんは、体の内側から温めてくれる食事になります。もちろん、これは、ふだんの食事としての話で、病気の治療を目的としたものではありません。背筋がゾクッとしたときの対処は、「背筋がゾクッとしたら?」の記事でも、お話ししています。
一鍋で五臓をいたわる|五色の具材に読む
東洋医学では、食べ物の色を、五臓に結びつけて考えます。白は肺、黄は脾、赤は心、黒(茶)は腎、緑は肝です。鍋焼きうどんの具材は、この五色が、自然にそろっています。
- 白:うどん、白ねぎ、かまぼこ(肺)
- 黄:卵(脾)
- 赤:えび天(心)
- 茶:しいたけ(腎)
- 緑:青ねぎ、ほうれん草などの青菜(肝)
もちろん、実際に、すべての具材が、そのまま対応するわけではありません。けれども、「いろいろな色を、一鍋にそろえる」という発想は、栄養のバランスをとる、東洋医学的な知恵として、楽しめます。色とりどりの具が、湯気のなかに浮かぶ姿を見て、「今日は、五臓をいたわる一鍋だ」と思うだけで、食卓が、少し楽しくなるはずです。
一鍋で五臓をいたわる|五色の具材に読む
四国で出会った鍋焼きうどんの出汁は、少し甘めでした。東洋医学では、甘味は、五味のなかで、「脾」に結びつきます。脾は、飲食物を消化して、エネルギーに変えるはたらきを担う臓で、冬の寒さに疲れた脾胃を、甘味がいたわる、と見ることができます。
ただし、東洋医学は、甘味のとりすぎも戒めます。甘いものを食べすぎると、脾のはたらきを乱して、体にむだな水分(湿)がたまりやすくなる、と考えるからです。甘めの出汁を、ほどよく楽しみ、汁を飲み干さないのが、ちょうどよい付き合い方でしょう。
熱々の鍋焼きを、体にやさしく食べるには
鍋焼きうどんの魅力は、熱々の状態で、運ばれてくることです。けれども、熱すぎる飲食物は、口や食道の粘膜に、負担をかけます。ふうふうと息を吹きかけて、少し冷ましながら食べるのは、熱さを和らげる、体にやさしい食べ方です。
また、うどんは、さっと食べられるため、早食いになりがちです。ゆっくり噛んで、味わうことが、脾胃への負担を減らします。昼食のあとの仕事にも、弾みがつくのは、体が温まり、満足感があるためでしょう。
食卓で楽しむ|家庭の鍋焼きうどん
特別な器がなくても、小さな鍋で、手軽に作れます。
材料(1人分)
- うどん(冷凍・生どちらでも)1玉
- 出汁 400ml(いりこと昆布の出汁が合います)
- 薄口醤油 小さじ2、みりん 小さじ1(甘めが好みなら、少し増やす)
- 鶏もも肉 40g
- しいたけ 1枚、白ねぎ 1/3本、青ねぎ 少々
- 卵 1個、えび天 1本、かまぼこ 2枚
- おろし生姜 少々
作り方
- 鍋に出汁と調味料を入れて温め、鶏肉としいたけ、白ねぎを入れて煮る。
- うどんを加えて、ほぐしながら温める。
- かまぼこ、えび天をのせ、真ん中に卵を割り入れて、ふたをし、卵が半熟になるまで火を通す。
- 青ねぎと、おろし生姜をのせて、できあがり。
ここでは、味つけを、控えめにしています。生姜を足すと、さらに体が温まります。汁は、飲み干さず、残す心づもりで、召し上がってください。
季節限定の食を、楽しむということ
「冬限定」という言葉に、心をくすぐられるのは、季節のめぐりを、食で感じる喜びがあるからだと思います。東洋医学は、季節に合わせて暮らすことを、養生の基本とします。冬は、寒さのなかで、体の力をたくわえる季節です。11月上旬の立冬を過ぎたら、温かいもの、味わいの深いものを、少しずつ食卓に取り入れてみてください。
まとめ|鍋焼きうどんの食卓養生学
鍋焼きうどんは、うどん・卵・肉・野菜が、一つの鍋に収まった、栄養バランスのとりやすい冬の料理です。東洋医学の目で見ると、小麦は心と脾胃を養い、白ねぎは寒さをはらい、卵・鶏肉・えび・しいたけは、それぞれに、気や血、腎を補う食材とされます。五色の具材が自然にそろうことも、一鍋で五臓をいたわる、楽しい見立てです。
甘めの出汁は、脾胃をいたわりますが、甘味と塩分のとりすぎは、控えめにするのが、よい付き合い方です。熱々を、ふうふうと冷まし、ゆっくり噛んで味わう。そんな小さな工夫が、冬の食卓を、体にやさしいものにします。四国の昼下がりに食べた一杯も、そうした食卓養生学の、ささやかな実践だったと、いま振り返って思います。
今日の『日々の食卓養生学』まとめ
冬の鍋焼きうどんは、小麦で脾胃を養い、白ねぎと生姜で寒さをはらい、卵や鶏肉、えび、しいたけで気や血、腎を補ってくれる、温かい一鍋です。そこに、白・黄・赤・茶・緑の五色の具が自然にそろうことを思えば、湯気の向こうに、五臓をいたわる楽しい見立てが広がります。ただし、甘めの出汁や汁の塩分は、ほどよく楽しみ、熱々は、ふうふうと冷ましながら、ゆっくり噛んで味わうことが大切です。温めて、彩って、ほどほどに。それが、冬の食卓で実践できる、鍋焼きうどんの食卓養生学です。
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FAQ よくある質問と答え
鍋焼きうどんは、風邪のひき始めに食べてもよいですか?
小麦は、東洋医学では、体を温めますか、冷やしますか?
鍋焼きうどんの塩分が気になります。どう食べればよいですか?
「五色」の見立ては、本当に効果があるのですか?
うどんを食べると、体が冷えることはありますか?
小麦アレルギーやグルテンに敏感な方は、どうすればよいですか?
心身のメンテナンス
日々の養生
想生・想身・想心
私たちの体と心はいちばんの宝ものです。
長い人生の旅路をともにする心身を、整え過ごすために、体と心にやさしい鍼灸をお奨めします。

For English Readers
The Table-Side Wisdom of Nabeyaki Udon (Hot-Pot Udon): A Winter Warmer in East Asian Medicine
In January 2006, during one of my monthly business trips to Shikoku, I had very little time to spare, but I still made sure to have Sanuki udon for lunch. That day, at a noodle shop in the Shiratori area of Kagawa Prefecture, I ordered nabeyaki udon: udon served bubbling hot in a small pot. The shop also offered kimchi hot pot and meat-and-egg udon, all available only in winter. For someone who visits only once a month, “winter only” is hard to resist. The broth was slightly sweet, and a local told me that sweet broth is common for this dish. Warmed through, I returned to the afternoon’s work with new energy.
Behind this simple lunch lies a good deal of dietary wisdom. At Genhodo Acupuncture Clinic, we regard the daily table as a place of care for the body, and we call the practice of reading everyday meals through East Asian medicine shokutaku yōjō-gaku, or “table-side health cultivation.” Nutritionally, a single pot supplies carbohydrates from the noodles, protein from egg, chicken and shrimp, and vegetables from leeks and shiitake. Be mindful of the salt in the broth, and avoid drinking it all.
In East Asian medicine, wheat is considered sweet and nourishing to the heart and the spleen-stomach system, and it appears in an old formula called Kanbaku Taisō-tō. The white part of the leek is pungent and warming, and has long been used at the start of a cold. Egg nourishes blood and yin, chicken warms the spleen and stomach, shrimp is said to warm and support the kidney, and shiitake supports qi and appetite. The ingredients also happen to gather five colors, white, yellow, red, brown and green, which East Asian thought links to the lungs, spleen, heart, kidney and liver. It is a playful way to see one pot as caring for all five organ systems.
The sweet broth fits this picture too. In East Asian medicine, the sweet flavor is linked to the spleen, which governs digestion, so a modest sweetness can comfort a body tired by winter cold. But too much sweetness is thought to burden the spleen and let excess moisture accumulate. Taking the broth in moderation, cooling each mouthful gently before eating, and chewing slowly are simple, kind ways to enjoy this dish.
If you cook it at home, simmer chicken, shiitake and leeks in a light iriko (dried sardine) and kelp broth, add udon, then crack an egg on top and cover until it sets. Add grated ginger for extra warmth, and season lightly. This article is a general piece on food and daily life, not a treatment for illness. If you have wheat allergy, hypertension or other conditions, please follow your doctor’s guidance.


源保堂鍼灸院・院長
瀬戸郁保 Ikuyasu Seto
鍼灸師・登録販売者・国際中医師
東洋遊人会・会長/日本中医会・会長/東洋脉診の会・会長
東洋医学・中医学にはよりよく生活するための多くの智慧があります。東洋医学・中医学をもっと多くの方に身近に感じてもらいたい、明るく楽しい毎日を送ってほしいと願っております。
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